『雨 に笑えば』(あずきりんご)


********************



突 然の雨…
それもバケツをひっくり返したような…

俺 はメトロの出口付近にあったカフェへと逃げこんだ…
そこで、俺は…






『雨 に笑えば』







「ひ でぇ〜なぁ〜。」

駆け込んだカフェ。周りには俺と同じ ようにメトロの出口から駆け込んできた客も何人かいて。
ジャケットについた 雨を手で払い落としながらひとりごちて。
俺はテーブル席に座り込んだ。

せっ かくだから、何か飲んでいくか?

そう思ってギャルソン を探す。
キョロキョロと辺りを見渡すと、他の客に慌しく接客しているギャル ソンの傍。
どこかで見た、日本人の女の子に目が止まる…

あ れって………?

「ぎゃぼーーーッ!!びしょびしょデス よ?」



*******

「ささっ!なぁんでも頼んでよ?奢るからさぁ〜」
「む きゃ?本当デスか?」

彼女に声をかけて。同じ席に座ら せて。
彼女は最初警戒していたようだが、奢るといわれて素直にメニューを見 ている。

……もともと。

メ トロのこの駅で降りたのは、退屈だったから千秋の家に行く為。
退屈凌ぎにか らかおうって思って。

けど、絶好の相手がいるじゃん。

この際だからあの千秋の弱点とか聞いちゃおうかっな?
い や。……待てよ?
それよりも。そうだ。
こ の子のことを根掘り葉掘り聞いて…それをアイツにいったら驚くかな?

カ フェオレを頼んだ彼女。
他には何もいらないといって。

「そ れだけでいいの?」
「ハイ。カフェオレだけでいいんデスよ?」
「ふ 〜ん。」

運ばれてくる間、のだめちゃんは黙って座って いて。
俺は間を取り繕うつもりで、聴取を始める…

「ね? のだめちゃんってさ?何が好きなの?」
「好き?デスか?」
「う ん。」

食べ物でも…俳優でも…映画でも…なんでもい い。
彼女の好みのものをまず調査だ。

「む きゅ?千秋先輩デスかね?」
「は?千秋?」

他 には思いつかないと彼女は言い、頬をほんのりピンク色に染める。
この子…相 当千秋に惚れてるよな?

”千秋”と名前を出すたびに、 嬉しそうな顔しちゃって…

――実は甲斐甲斐しく世話を 焼いてたりして?

「…そ、それじゃあさ。好きな食べ物 は何?」
「えっと。先輩が作ってくれるものならなんでも?」
「は?」
「先輩。すごく料理が上手なんデスよ?」


…… この女…あの千秋に料理させてるのか?
あの男がエプロンつけて…って。


今 まで作ってもらったレパートリーを順に説明する彼女。
千秋って………飯で女 を釣るタイプなのか?

このままいつまで続くかわからな いそれを、途中で阻止して。

「じゃあさ〜。好きなテレ ビとか映画とか…は?」
「むきゃっ!プリゴロタです!この間も先輩と一緒に 映画見マシタよ?」


……あの千秋 がアニメ映画を???


「この間の は夏の大作で…先輩クッション抱えて涙ぐんでました…」


…… ち、千秋が、アニメで泣いたぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜???



「ひぃ 〜〜〜〜〜ひっひっひっひっ!!!」
「…松田サン?」

思 い浮かべた光景があまりに可笑しくて、吹出した俺。
あの俺さま千秋が…… レースのエプロンつけて(勝手な思いこみ)
クッション抱きながら、アニメ見 て泣くのか?


調子付いてきた。う ん。
それじゃ。この辺でもう少し突っ込んだ話を…


「じゃ 〜〜さ〜〜。二人でいる時ってなにしてるの?」
「何って…なんデスか?」
「だ〜か〜ら〜。二人でいる時にすることって言えばさ〜。」


二 人でいちゃいちゃしてますぅ〜。とか言わねーかな?
泣いた千秋を「いい子い い子」って撫でてますとかっ???


彼 女は天を仰いで考え込む。
ほらっ!早く言えっ!…………俺様千秋の豹変 をっ!!!

「・・……ピアノ。デスかね?」
「は い?」
「先輩はよく見てくれるんデスよ?最近課題も多いデスから!」
「・…… あ。ああ〜。ピアノねぇ〜。」


――― 急に、トーンダウン。
そっか。この子学生だったもんな?そりゃ課題もあるだ ろう…
けどっ!!!
俺 が聞きたいのは、そんな事じゃないんだなぁ〜。


程 なく運ばれてきたカフェオレを口に運びながら。
その大きなカップを包み込む ように持つ彼女の手を見て驚く。

女にしては、大きな 手。

それに…
冷 ますように、ふぅと息を吹きかけるその唇は桜色。
俯き加減の目は大きくそれ にかかるまつげも長い。


ふ〜〜 ん。
前に会った時は気がつかなかったけど。
結 構可愛いよな?…………胸もデカそうだし?


カ チ。
カップをテーブルに置き。
俺 は斜に構えて、彼女に視線を送る。
彼女から見て、斜め45度の角度。
こ れが俺の一番の男前ポイント。

「な?千秋もいいけど、 他にもいるだろう?いい男。」
「むき?」

彼 女は俺の顔をまじまじと見て、考え込む。

「……いませ んね?」
「いるだろ!!!」・・……ここにっ!

はぁ。 とため息をつき。
俺は半ば飽きれて彼女に向き合う。

な んで気がつかないかなぁ?


「ふ〜 ん。君は男を知らないね〜?」
「うぎ?」
「千 秋なんかより、もっといい男が目の前にいるだろう?」
「目の前……って?松 田さんしかいませんが?何か?」


俺 は完全スルーかよっ!
もはや、ヤケッパチ。
俺 は彼女の手を取り両手で握り締めて。


「あ んな。陰湿で、ねちっこくて、俺様な千秋より俺の方がいいと思わないっ?」
「ぎゃ ぼ〜〜!!!何してるんデスか??」

彼女は手を振り解 こうと身を捩るが、構う事ないさっ!
この際、はっきり認めさせとかない とっ!


「千秋より、俺の方が大人 でいい男だろ?な?」


ムキになっ て。
そう彼女の手を握り締めたまま絶叫した俺。


け ど。
その握った手の上に、違う手がポンと置かれて。
ゆっ くり視線を上に上げると。




「……… どこが、大人だっ?」



眉 間に皺を寄せた、可愛くない俺の後輩…
千秋が俺の手を振り解くように払いの ける。

「…アンタは一体何やってるんだ…」

まっ たく…っと小さく呟かれて。
彼女は、満面の笑みで千秋を見つめて。


「な んでここに松田さんがいるんだ?」
「それがデスね〜。さっき先輩に電話した 後、店でたまたま会ったんですよ?」
「ふ〜ん。」


… どうやら、彼女は千秋に迎えに来てもらう事になっていたようで。
帰るぞ?と 彼女の腕を掴み席を立たせて。

「…せっかくだからお前 も何か飲んでいけば?」
「……お断りします。」

ほ ら、いくぞっ?って目は俺を睨む。
もう、俺と大事な彼女を関わらせたくな いって意思はみえみえ…

俺は席に座ったまま、二人が店 の外の出で行くのを見送る。
彼女の視線はもう千秋に釘付けで。

そ れに千秋も笑顔で返して。


・…… おう〜おう〜。
彼女をしっかり腕に絡ませちゃって…

あ のにやけた千秋の顔。これはちょっと撮っとかないとな?


――― あとで、峰にでも送っておこう。


二 人の姿が見えなくなると。
外の雨も小雨に変わり。
路 上に溜まった雨も徐々に路肩に消えていく…

俺もようや く席を立ち店の外へ。

雲の合間から、暖かな日差しがま た顔を出し始めて。


「……変な 女…」


くっくっく……と笑って。
その小雨の中を俺は、ズボンの裾が濡れるのも厭わないまま。
バ シャバシャと、軽いステップを踏みながら、跳ねるように歩く。


ちょっ とだけ、千秋が羨ましいな?なぁんて思いながら。
メトロへの道を急いだ…


*********