bitter and sweet 〜時には溶け合うように〜 5



 dernier quartier

その日は強い日差しの中で目が覚めた。
昨日の僕と今日の僕。何も変わっ ちゃいない。
月の光の中で見たものは幻?夢?ぼんやりとしか思い浮かばない。

「おはよう。リュカ。」
朝日の中のエマはいつものエマ だった。小さくて、いつも笑っているエマだった。
「おはよう。」
「今日も学校?」
「うん。 練習に行く。」
彼女は満面の笑みを浮かべた。
「がんばってね。」

 

学校に着くと、のだめはすでにカフェテリアの椅子に座って楽譜を読んでいた。
「の だめ。おはよう。」
「おはよう。」
やっぱりここも、いつもと同じ。何も変わっていない。

「リュカ?」
のだめが真ん前にいたので、ビックリした。
「ど うしたんですか?何か探しモノですか?」
「い、いや。別に…」
彼女は目を丸くして不思議そうな顔をした。
「練 習行こうか。」
「そですね。」
のだめはそう言って僕の前をゆっくりと歩き出した。
「そう だ。のだめ。」
のだめは振り返る。
「帰りに買い物に付き合って欲しいんだ。」
「買い物?」
「い い?ちょっと早めにここを出て…。」

 明後日、エマは家に帰る…。


夕方、帰り道、学校の近くの小さな雑貨屋に僕達はいた。
「先 生へのお土産ですか?」
そう、僕はエマへのプレゼントを買いにここに来た。
「うん。どういうのがいいのかな〜っ て思って。」
僕は小物が置いてある場所で手に取りながら考えた。
ふっと、目に留まったのが星型のキーホルダー。 銀色の小さな星が3つ。真ん中には赤と黄色と青の小さな石が付いていた。そうだ、エマは星が好きだったんだよね…。
「リュカはその人 と仲良しなんですね。」
「えっ?」
「だって、一生懸命探しているから…。」
仲良しか…。
「う ん、そうだね。なかよし、かな?」
僕は微笑んだ。
「それ、素敵だと思いますよ。」
のだめは そう言うとにっこりと笑った。

 * * *

「本当にお世話になり ました。お陰さまで楽しいパリ旅行ができました。」
エマは僕の両親に太陽のような笑顔でそう言った。
「リュカ。 学校卒業したら、是非、うちの方に遊びに来てね。素敵な音楽の風景のような景色があるはずだから。」
エマは僕の手を取り、目を見て 言った。
「うん。行くよ。」
そう言って、僕達はハグを交わした。
「あ、エマ。これ…。」
赤 いリボンを付けた小さな白い袋。それを差し出すと、彼女は本当に嬉しそうな笑顔になった。
「ありがとう、中、見ていい?」
僕 が頷くと、すぐに中身を取り出した。
「うわ〜、きれい。」
彼女は目を細めて笑った。

 夏の日差しが降り注ぐ中で見た彼女の笑顔は、僕の心にしっかりと焼き付い た…。

 

 そして新学期…


「リュカ。」
いつもの声が後ろから 聞える。
「おはよう。のだめ。」
息を切らせながら髪を振り乱し、駆け寄ってきた。
「1週間 ぶりですね。」
「そうだね。」
相変わらずのこの姿に思わず笑ってしまう。
「何かいい事あっ たんですか?」
僕の顔を見ながら真顔で訊いてきた。
「さあ、どうかな?」
「?」

 エマが家に戻ってから1週間後、僕宛にきれいな星の写真のポストカードが届 いた。
丁寧な字で僕たち家族への感謝の気持ちと、そして、僕への気持ち…。
そして最後は「あなたの想いが大切な 人に伝わりますように」と書き綴られていた…。


「どうしましたか?」
のだめに声を かけられて、我に返った。
「なんだか、急に大人っぽくなりましたね。」
のだめは眩しそうに目を細め、僕を見上げ た。
僕はゆっくりと空を見上げた。気が付くと空はずっと高く離れて見えた。

「さあ、行こうか。」
僕はのだめの手を掴んで、学校へ走 り出した。
「リュカ。早いですよ〜。」
のだめの声を後ろに聞きながら、僕はぐんぐんスピードを上げていった。

fin