彼 女はポツリポツリと俺に話をした。
どうやら千秋にウィーンのことがバレて喧嘩になったらしい。

「別 に隠していたわけじゃないですけど、言うタイミングがなくて。そしたら先輩がどこからか
聞いたらしくて、すごく一方的に怒られてのだ めもついキレちゃって…」

コーヒーをチビチビ飲みながら少し切なそうな顔をして…

「し かし、千秋もガキだね〜。のだめちゃんの言い分も聞かないで」

「でも、分かってるんです。千秋先輩が心配してく れることが、けど…」

「けど?」

何が不満なんだ?愛する男に心配をさ せられるなんて女冥利に付くんじゃないのか。
ちょっと彼女の気持ちが分からなかった。

「も うちょっとのだめの気持ち考えてほしかったなって。あの時、いきなり連れてこられて、肝心のミルヒーとははぐれちゃっておまけに言葉も分からなくて、のだ めここにいていいのかなってちょっと心細くなっちゃってて…だから、松田さんが声を掛けてくれたとき、正直とてもうれしかったんです」

彼 女がにっこりとオレに向かって微笑んでくれた。
そういえば、あの時オレに対して必死だったな。知らない人ばかりで言葉も分からずに一 人でいた彼女はどんなに寂しかったんだろう。

「だけど、千秋先輩にはのだめの気持ちが分からないみたいで…そ りゃ、先輩はドイツ語もできるし、ああいったパーティーは慣れているかもしれないいですけど・・・
もっとのだめのことをわかってほし い。同じ目線で見てほしいんです。のだめは先輩の後ろを歩くんじゃなくて横に、いつかは前に進みたいんです。なのに…」

彼 女は思っていたことをすべて吐き出したらしく、下を向いてスカートを握りしめていた。
そしてその掌には一粒の雫が…

あ あ、そうか…彼女は…だから千秋は…

「なあ、のだめちゃん」

「む きゃ?」

「青い鳥って知ってる?」

「えっと、童話の?」

「そ、 メ―テリンクの童話の青い鳥」

――青い鳥――
兄妹のチルチルとミチルが夢の中で思い出の国 や未来の国へ幸せの青い鳥を探す旅をするが、青い鳥は捕まえることができず、夢から覚めると籠の中に青い羽根が入っていた。
自分たち が飼っていた鳥が実は青い鳥だった。
幸せはすぐ身近な所にあってもなかなかそれを見つけることは出来ない。
そう いった内容だ。

「はい、だいたいは。小さい頃よくヨーコが読んでくれましたから」

「ヨー コ?」

「はい、のだめのお母さんです」

そういえばそんなことも聞いた な。しかし自分の母親を名前で呼ぶなんて…

「千秋にとってのだめちゃんは青い鳥なんだよ」