「む
きゃ、のだめがですか?」
「そ」
「そんなことないですよ〜だってのだ
めは何もしてないから…よく分かりません」
そういってカップを両手で持ってコーヒーを飲んでいた。
千
秋は気づいたんだ。彼女が自分にとって幸せを運んできてくれるんだと。
だから彼女を大事にしたかった。
自分の手
元に置きたかった。
そういえば、ウィーンでこんなこと聞いたな。
『の
だめ、千秋先輩に近づきたくてコンクールに出たんです。でも最後の最後で失敗しちゃって…あんなに頑張ったのにダメだったんです。
そ
の時千秋先輩が一緒にヨーロッパ行こうって言ってくれたんですけど、あの時もうピアノのこと考えたくなくてキレちゃったんです。
実家
に帰りましたがピアノには触りたくなくて。もう何も考えたくなくて・・・
でもしばらくしてからピアノが話しかけてくれたんです。一緒
に遊ぼうって。
その声を聞いたらピアノの前に座っていて、指が動いてたんです。
弾いてる時に思ったんです。のだ
めは音楽がピアノが大好きなんだなって。
そしたらガコの先生からコンヴァトの留学の話を聞いて、その後千秋先輩が迎えに来てくれたん
です』
あの時懐かしそうに話してくれたな。
彼女が自分の所からいなく
なって、初めて存在の大きさや大切さに気づいたんだろう。
だからもう同じことを繰り返したくなくて・・・
こ
の話、実は舞台劇用の話で原作では、飼っていた青い鳥も結局逃げてしまいどこかに行ってしまいそれで話が終わっている。
きっ
と千秋もそう思っているんだろう…
「ねえ、例えばさあー」
「はい?」
「の
だめちゃんが一番大切なものを人に見せたいと思わない?」
「むきゃ、あっハイ。それはありますよ」
「じゃ
あ、それを他の人が欲しいっていったらどうする?」
「それはモチロンあげませんよ」
彼
女は得意げな顔をして俺の話を聞いている。
「大事に大事に誰にも分らない所に隠します…って、あ!」
大
きな声を出して、顔を赤くして俯いてしまった。
どうやらオレの言いたかったことがわかったらしい…
「そ
ういうことだよ、分かった?」
「うきゅ…ハイ、でも…」
「でも?」
「そ
うだったら、のだめの青い鳥は千秋先輩です!だって千秋先輩がいなかったらのだめはここにいなかったですから」
俯
いていた顔をあげ、オレを見て微笑んだ。
顔はまだほんのりと赤いが、大きな瞳でじっと見ていた。
きっと瞳の中に
は千秋しか入ってないんだろうな。
「ハイハイ、ごちそーさん」
「へへ
へ」
オレは一息ついてコーヒーを飲んだ。さっき飲んだ味よりも何だか苦く感じた。
「じゃ
あ、これで悩み事相談室はこれで終わり!あいつだってバカじゃないからすぐに気付くさ」
「むきゃ、千秋先輩バカ
ですよ?松田さんも、あとのだめも」
「はあ、なんでだよ」
彼女はニコ
ニコしながら答えた。
「だって…音楽バカじゃないですか、のだめたち」
「ぷ……
はっはははーー!た、確かにそうだな…」
彼女も思い切り笑っていた。こんなに大笑いしたのは久しぶりだ。
「じゃ
あ、悩み事の相談のお礼に…」
「ぎゃぼ?」
「もう一度ピアノ聴かせ
て」
「へ、それだけでいいんですか?」
「ああ、十分だ」
彼
女は少し驚いたみたいだが、ピアノの前に座り、オレに話しかけた。
「松田さん、何かリクエストありますか?と
いってものだめあんまりレパートリーないですが」
「いいよ、弾きたい曲で」
「む
〜〜ん、じゃあ…」
少し目を閉じていたが、鍵盤に指が触った時、この部屋の雰囲気が一気に変わった。