『松
田幸久、独身日記。その1』
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シ
トシトシト…………
外は雨。
俺は、窓辺の席に腰掛けて、通りに降りしきる雨を見ていた。
窓
に備え付けられたカウンター。
通りに面したそこからは、雨の中を行き交う人々が見える。
カ
ウンターの上には。
俺のお気に入りのシナモン・ティーと、封を切ったばかりの愛用の煙草。
カ
チッっと音を立ててライターをつければ、特有のガスオイルの匂いと煙草の甘い匂いが
鼻腔をくすぐる…
「………
長雨だな。」
冷たい雨。
石畳に叩きつけられる雨は、止めど無く天から舞い降りる。
け
ど、それも悪くない。
たまには、こうして、ぼんやりと、雨を見つめるってのもいいモノだ…
「ふぅ
〜。」
ため息混じりに、煙を吐けば、ガラス窓に映る俺の憂鬱な顔も曇らせて。
思
えば、こうしてただ待ってるだけの時間って過ごしてない。
いつも、時間に追われて。
街から街。国から国へと。
音
楽を奏で続ける毎日。
若い時からがむしゃらに走りつづけてきたけど。
た
まにはこういう時間を持つってことも必要なのかもしれないな?
足を組んで。
目
を通すのは仏字新聞。
少し温くなったシナモンティは、香りも微か。
今は、煙草の煙が独特の
香りを俺に主張して…
―――揺らめく煙を、また新たな煙で揺り動かす。
「ちょっ
と〜〜〜〜っ!!!もう、終ってるわよ?アンタのランドリーーーーッ!!!」
現
実に引き戻される、けたたましい、キンキンしたオバさんの声。
見れば、俺が入れたランドリーはとっくの昔に回転し終わってたようで。
「……
え?・・……あ、はいはいはい〜〜」
「早く出し
てよね〜?後、つかえてんだからっ!」
「すみません……」
もって来た
紙袋に、ランドリーし終わった衣服を入れて。
そそくさと、その場を立ち去ろうとする。
け
ど。
「あっ!にいちゃん?パンツ忘れてるわよ〜〜。赤い派手なパーーーンーーーッツーーー!!!」
後
ろで、おばさんの声がする。そんなでかい声で言わなくても聞こえるってっ!
「明
日…洗濯機買いに行こう…」
洗濯機さえ壊れなければ、こんなとこで侘
しく待ってる事もなかったのにっ!
俺は、衣類を入れた紙袋を大事に腕に抱えて。
雨に濡れな
いように。
外に走り出した。
松
田幸久。
洗濯機もいいけど、そろそろ嫁さんもね?・……って話。
お
わり。