ノートパソコンの電源を入れると、ウイーンと低い音が鳴った。
 機械が立ち上がるのを確認すると、すぐにキーボード上で指を走らせる。

Christopher Burton

 そう打ち込んで、マウスをクリックした。

 …イギリス出身。現ウィーン在住。ピアニスト。作曲家…

… 繊細で情緒豊かな音色を奏でる彼のピアノは「現代に生きるショパン」と称されている。近年、映画音楽を手がけ、多くの映画ファンからも支持されている。 2009年12月より健康上の理由により活動休止。現在、オーストリア郊外の別荘で夫人と二人で療養中。活動休止直前に新曲を一部の関係者のみ発表してい て、高い評価を受けている。が、活動休止中の今、その名曲を我々は耳にする事ができない。一日でも早い復帰を待ち望む…


 「Rui……少し聞きたいことがあるんだ。」


  「え、何?」
 「…のだめのオーストリア時代の話を、知っている限りでいいから教えて欲しいんだ。」

 あいつと再会してから、うっすらと感じていた心の影。
それが俺の知らない2年間に関係ある事は、最初から何となく分かっていた。
 
…そして、あの時のあいつの表情(かお)…

 あいつをあそこまで苦しめているものは、いったい何なんだ。

 受話器越しに小さなため息が聞こえた。

 「…まったく、しょうがないわね…二人とも…。」
Ruiはぼそっと呟いて、可笑しそうに小さく笑った。
 「え?」
 「ううん、何でもない。詳しくは知らないけど…それでもいいなら。」




不機嫌なマエストロ 第6話



「あいつが師事したクリストファー・バートンとは面識があるの?」
「うん、何度か。」

 オーストリアでは名の通ったピアニスト。アカデミー賞の候補に挙がったドキュメンタリー映画の音楽監修を行った事により、広く認知されるようになった。

 俺自身はそれ程認識がないのだが、彼の曲は何度か耳にした事がある。
のだめの口から初めてこの名前を聞いた時は泥酔していて、判断能力がひどく低下していた時だった。
それでも、この名前だけははっきりと耳に残った。

「どういう人?ちょっと気難しいって噂もあるんだけど…。」

 真面目で几帳面というのは専らの評判だ。でも、一部では偏屈との噂もある。
のだめのあの性格で、彼との相性はどんなものなのか、正直不安があった。
しかし、いくら心配したからと言っても、その時の俺達は疎遠の仲になっていた。

「んー、そうね…確かに神経質な面もあるけど…。でも、紳士よ。話もウィットに富んでいて、とっても魅力的な人だと思うの。」
「そうなんだ…。でも…、のだめは上手くやっていけたのか?あいつのあの性格で…。」
「ふ ふ、確かに性格的に大きな違いはあるわね。でも、のだめサンを弟子に迎えた時には、すでに精神的な不安を抱えていたって聞くわ。自分自身に余裕がない時な のに、新しい弟子を迎えたって事は、のだめサンのピアノに何かを見出したからだと思うの。のだめサンだって音楽の幅を広げると言う意味では、有意義だった と思うし…。」

「師弟関係を解消した理由は?1年くらいなんだろう。」
「ん…多分、病気が一番の原因だと思う。最後の方は演奏できないくらいに衰弱していたみたいだし…。」
「何かトラブルとか…なかったのか?」
「…その時は、なかったと思うけど…。」

Ruiはそう言うと、小さく深呼吸をした。

「私は本当に大した事は知らないのよ。申し訳ないけど。憶測で話をするのもどうかと思うし…。」
「…そうだな。悪いな。」
「ううん。…役に立てなくてこちらこそ悪いわね。」

ふと、先ほど見た彼の記事を思い出した。
「そう言えば、活動休止直前に出した彼の新曲って、Ruiは知ってる?」
「え?」
Ruiは息を呑んだ。
「…私は知らないわ。」
「そうか…。」
「でも…。」
「ん?」
しばらくの沈黙。

「…その曲に関しては、いろいろあったみたいで…。」
Ruiの声には躊躇いが感じられた。

「いろいろ?」
「あ、でも、それも憶測ばかりの話なのよ。あ、ごめん、千秋。ちょっとこれから出なきゃいけないのよ。」
電話越しからガサガサと何かしている音が聞こえた。
「あ、悪いな。いろいろとありがとう。」
「いいえ、どういたしまして。じゃあ、またね。」

ピッ。携帯電話のボタンを押した。


作曲家でもある師匠の下についていたのだから、作曲の勉強もしていたと考えてもおかしくないはず…。
でも、あの時のあいつは、俺の言った「オリジナル曲」と言う言葉に過剰に反応し、明らかに拒否の態度を示していた。
  

俺の知っている頃のあいつは、勝手に変な曲を作って、それを楽しそうに弾いていた。
俺がいくらやめろと言っても、言う事聞かずに、それは楽しそうに弾いていたんだ…でも…


    「あ……そう、オリジナル……いいですネ……」



 
    「行けったら!!お前に用はない!!」

 
…そうだった。俺は部外者だったんだよな。

 あいつにはちゃんと傍で守ってくれる存在があるんだ。
いつでも隣にいて、包み込んでくれ、そして、あいつの事を心から愛していて……。
 
力なくふっと笑って、ウインドウを閉じた。

…何をやってんだろうか…。

そのまま立ち上がるとソファーまで歩き、腰掛けた。
ふと、彩子の寂しそうな笑顔が思い浮かんだ。

…そうだ、俺にも傍にいる存在があるんだ。空っぽになった俺を、ただ抱きしめてくれる、そんな温かな存在が…。


目の前のローテーブルの上には、デビューコンサートの総譜が積まれている。俺はそれに手を伸ばした
夜になっても鳴き止まない蝉の声が遠くに感じるくらい、目の前の音楽に没頭して行った。

 

 「では、第2楽章の最初から…。」

団員達は苦々しく笑っている。また、いつものがはじまったよ…そんな声が聞こえてくるようだ。
俺は左斜め前に視線を落とした。
そんな不協和音の響く団員の中でも、一番手強く感じるのが、この人だ。
コンマスの高梨氏。

50代半ばのバイオリニスト。この団員の中での一番のベテランでもある。
小柄で短くそろえた白髪混じりの髪をいつも丁寧にまとめ上げている。いつも、笑みを浮かべて一見物腰が柔らかく見えるのだが、何を考えているのか一切分からない。
俺との話は挨拶と事務的な用件のみで、向こうから話し掛けてくることなんて、殆どない。

相手にされていないんだろうな…。批判や文句を受けるよりもキツい処遇だ…。
今日もこの人は笑みを浮かべながら、こっちを見ているだけだった。

認めてもらうには成果を出すしかない…。


 



夜、暗い部屋で一人彷徨うようにフラフラと歩きながら、ベッドの上に倒れこんだ。

  疲れた…。
 
でも、この疲れは精神的なものであって、眠ったとしても回復できるものではなかった。
何もする気になれない。
こんなんで、本当に公演なんてできるのだろうか…。


…どこかへ消えてしまえば、楽になるのかもしれないよな…。
 
 
   ブルルルル…。

マナーモードにしたままの携帯電話の振動する音が聞こえた。
俺は重たい身体を引きずりながら、鞄の中のそれを取り出した。
着信の表示を見るとすぐに、画面を開いてボタンを押した。

 
「もしもし…。」
「あ、千秋先輩。今、お時間大丈夫ですか?」

何故か懐かしく感じる、のだめの声が聞こえた。
「ああ大丈夫。どうしたの?」
心の動揺を悟られないようにしながら声を出した。
「あの、先輩…オペラの勉強してましたよね。」
「ああ、そうだけど…。何?」
「ちょっと、教えていただきたい事がありまして…。」
「?」



 
 

その日は朝遅くに目が覚めた。昨日は取材を受けたりして、深夜過ぎの帰宅だった。今日のリハは夕方からだ。
カーテンを開けると、夏の日差しが燦燦と降り注いできた。
机の上にはのだめに渡すための資料の数々と、楽譜を入れた紙袋が置いてあった。

  
「トリスタンとイゾルデ?」

「はい、今の大きな課題です。」
「歌劇をやるのか?しかも、ピアノデュオで…。」
「そうなんです。なので、のだめは今、勉強中でして…。」

 

 *****  リヒャルト・ワーグナー作  『トリスタンとイゾルデ』 ******

3章からなる楽劇。13世紀、ゴットフリート・フォン・シュトラスブルクの叙事詩を原作とした作品。イングランドの騎士トリスタンとアイルランド王女イゾルデの悲恋の物語。全編を通して官能的で甘美な音楽で彩られている。
こ の作品はワーグナーの楽劇の中でとくに長く、難解な作品である。この台本を手がけていた1857〜1859年にかけてのワーグナーは、複数の女性たちと交 際していたという。中でもパトロンだった豪商ヴェーゼンドンクの妻マティルデとの不倫は、この楽劇の作成に大きな影響を与えたことで有名だ。二人の関係は 長く続かなかったが、彼らのロマンスは情熱的な愛をテーマとした『トリスタンとイゾルデ』となって実をむすぶ。




「リュカの音楽的要求は大きいんです。オペラやオケストラの舞台をピアノで表現したいって…。のだめも是非、その気持ちに応えたいんです。リュカのお陰で、こんなに大勢の人たちの前で、演奏ができる機会を与えてもらっているのですから…。」
「そう…。」

多彩な音を持つ二人のピアノ。それが組み合わされば、可能性は大きく広がる。

「期限があるので、もう時間がないんです。何とか最後までには完成させたくて…。」

センセーショナルなPRで、派手さばかりが話題に上がるデュオなのだが、優秀な音楽家の共演でもある。
その音楽に向かう姿勢、二人とも真摯であった。
「DVDとかCDとか本とか、のだめなりにイメージを掴もうと思ったのですが、なかなか上手くいかなくて…。先輩なら何かいい方法を知っていると思ったんです。…何かお勧めの本とか、ありますか?」
最後の方は、遠慮深げに声を小さくして尋ねてきた。

「…面白いかもな。」
「はい?」
「ん、お前達のデュオ。」
「そですか?」
「俺が前に勉強していた時に使ったのでよければ、貸すけど…。いろいろ書き込んだ楽譜とかもあるし…。」
「ありがとうございます。」
のだめは本当に嬉しそうに、そう言った。

…いろいろあったけど、こいつにとって俺は、今でも音楽においては絶大な信頼をもらっているのか…。

「じゃあ、着払いで郵送してください。」
「いいよ。どうせ仕事先は近くなんだから…届けに行くよ。」
「ぎゃぼ。だって、先輩、オケの方が忙しいじゃないですか。もうすぐ初回公演なのに…。」
何だ、気にしていたんだ。

「…大丈夫だよ。それくらい…。」
俺はフッと笑った。
「…すみません。お願いばかりして。のだめは何にもお返しができないのに…。」
悲しそうにのだめは言った。

お返しって…。

俺は切なくなった。
昔はそんな事気にすることなく、堂々と甘えてきたのに…。
そんな事を考えなければならない、それが今の俺達の関係…なんだろうな。

「いいよ。そんな事…。」
しばらくそのまま、俺達は黙っていた。

「…早い方がいいだろう。明日は?」
「えと、午前中は用事があって…3時くらいならスタジオに入っていると思います。」
「俺は夕方からリハだから…、その前に時間が合えば渡しにいく。スタジオはどこだっけ?」
「はい。えとですね…」



 

 俺は紙袋の中身を再度確かめた。
その時、窓から入り込んだ風がひやりと感じた。
窓から空を見上げると、黒い雲が東の空を徐々に覆い始めていた。





 ブ…オン。ドドドッ…。
地下駐車場に響き渡るエンジン音。この音を聞くのも久しぶりだ。
東京での所有車、アルファロメオ 147 Collezione。
自分所有といっても、ほとんど乗ったことがない。ギアを握っていても馴染みがない。

普段は交通は、公共機関でだいたい用は足りる。
都心のど真ん中で居住を決めた時、車まで持つ気はなかった。維持費だけでも馬鹿にならない。
それでも、不規則な職業だし、これから地方なども行く事があるだろうから…なんて周りから言われて探していたところ、叔父の知人関係から格安に譲られたのがこの車だ。
俺は車にはそれ程思い入れがないから、こんな大層なモノを持つ気はなかったんだが、俊彦のヤツが、「『新東響』の主任ならこれくらいのに乗ってよ。」
…なんて、言われて…(あいつはただ、自分で運転したいだけなんだろうけど…)。
 
納車してから運転したのは、彩子と一度横浜まで出かけたのと、由衣子を家まで何度か送った事くらいだ。
本当に高いオブジェと化している…。
 

でも、こういう時には役に立つ。



外は土砂降りの雨。ワイパーの速度を最大に上げても、すぐに視界を失う。
朝は、いい天気だったから、あいつは傘まで持っていないだろう。
メールでそっちの方にいるからとメッセージを送り、あいつのいる芝公園の方へ車を走らせる。


今日は老舗のフレンチレストランで、友人の結婚式があると言っていた。
話の限りでは、この辺なはずなんだが…。

駐車できそうな場所をみつけ、車を停めた。
車内に流れるFMからは「雨が降ってきましたね。雨に関するラブソングを…」と女性の声が聞こえた。
 

プルルル…携帯の着信音。

「もしもし。」
「先輩、ここまで来てくれたんですか?」
ガヤガヤと雑音と共にのだめの声が聞こえる。
「車でな。雨ひどいだろう…。もう終わったの?」
「…あ、はい。これから2次会があるみたいなのですが…、のだめは仕事なので、帰ります。」
後ろから笑い声が聞こえてくる。
「近くに停めてあるから…今どこ?」
「えと、今、会場を出ました。」
電話越しに聞こえるのだめの息が、どんどん上がっていく。
「通り沿いに止まっているから、紺の…。」
リアガラスにぼやけて人影が見えた。こっちに向かって走ってくる…。
 
俺はドアを開けて外へ出た。

まだ、雨は強い。剥き出しになった腕を大粒の水滴が次々に伝って落ちていった。
あいつは片手に大きな荷物を抱えて、もう一方には丸いブーケを握りながらこっちに向かって走ってきた。
この季節によく見かけるいつものワンピースを身に着けているのだが、白っぽい生地だからか、どこかから逃れてきた花嫁のようにも見えた。
 

俺が手を上げると、あいつはすぐに気がづき、更に速度を上げてこっちに向かってきた。
ほんのちょっとした距離なのに、あっという間に濡れてしまう。
俺は助手席を開けてのだめを中に入れた。
「…がぼん、びしょ濡れです。先輩、シート濡らしちゃいました。」
俺も乗り込んでドアを閉めた。
セカンドシートの鞄の中から、タオルを取り出した。
「これで拭いとけ。風邪引くぞ…。」
「ありがとうございます〜。」
そう言って、のだめはタオルで髪の毛をガシガシと拭いた。

「…それ、もらったの?」
のだめの膝の上に乗っているラウンド型の白と青で彩られたブーケは、爽やかな香りを放っていた。
「あ、はい。今日は演奏をしたので、お礼にって…。」
「演奏?」
「そうなんです。新婦のお友達でプロのボーカリストの人がいて、その人と即席セッションをやったんです。」
「へえ、何の曲?」
「えっと、ですね…。」
すると、スピーカーから懐かしい曲が流れてきた。


 How gentle is the rain…


 『A Lover's Concerto』
サラ・ヴォーンのハスキーで重厚な歌声…。

「これです。ぎゃは、ナイスタイミングですね。」
「これを…。」
「そです。突然雨も降ってきたりして、雰囲気抜群だったんですよ。」
のだめは嬉しそうに、メロディーを口ずさんだ。
「そだ、これってバッハのメヌエットをモチーフにしたんですよね。今度のソロコンサートにはメヌエットも曲目に入れてもいいですね。のだめ好きだから…あ、バッハじゃなくてペツォールトだったんでしたっけ…。」
 
俺はその時、ある光景を思い出した。



  あの日も、雨が降っていた。



こんな夏の雨じゃなくて、冬の冷たい雨…。
のだめは俺の部屋でメヌエットト長調を弾いていた。
この曲はバッハじゃなくて、クリスティアン・ペツォールトの作品だったという事が最近判明した…そんな話を俺がしていたら、

「有名人になると自分の曲じゃないのに勝手に自分の曲にになっちゃったりするんですねー。でも、この曲、明るくって可愛くてのだめ大好きデス♪」

 そう言いながら、こいつは楽しそうにピアノを弾き続けた。その笑顔が余りにも愛らしかったので、曲が終わった後、後ろからそっと抱きしめた。

「先輩、あったかいデス。」
 
 あの頃は近くに居る事が当たり前で、いつまでも続いていくもんだと思っていた…。


のだめはタオルで拭くのも忘れて、微笑みながらラジオに聴き入っていた。
頬にかかる髪の先には、今にも零れ落ちそうな水滴が付いている。
「おい、ちゃんと乾かせよ…。」
そう言って、のだめの手からタオルを取り、彼女の頭を乱暴に拭いた。
「むきゃっ。」
「風邪、引くぞ。」
タオルを取り、ぼさぼさになったこいつの髪の毛を、指を絡ませて漉く。

指に絡みつく、柔らかな薄茶色の髪の毛…。

 あっ…。

指先が…覚えている。この感触…。

風呂上りの濡れたままの髪の毛に、こうやって指を絡ませた事…

…何度もあった。

雨の中を走って俺の家まで駆け上がって、息を切らせながら俺に抱きついてきて、
濡れた頬にぺたっとくっついた髪の毛を、乾いた俺の掌で拭くと、嬉しそうに目を瞑った。

そんなこいつが愛しくて、いつもその身体を腕の中に閉じ込めて…。


「先輩?」

気がつくと、俺はのだめの身体を抱きしめていた。

 気持ちが…溢れてしまって、抑えられない…。

どんなに、言葉を並べて自分を納得させようと試みても、心の奥に閉じこめようとしても、その思いは収まり切ることはできなかった。
 
指先は、こいつを求めていた。身体は、こいつを求めていた。

心は…こいつを…求めて…。

「せん…。」
震えながら弱々しく、俺の事を呼ぶのだめの声が聞えた。
「ごめん…少しの間だけ…。」
冷えきってしまったのだめの柔らかい身体を、腕の中に閉じ込め力を込めた。
触れている部分からじわじわと潤っていくような感覚を感じた。
 
俺が心の底から求めて、切望していたもの。ずっと、ずっと望んでいたものが、この腕の中に…。

  …just to fall in love…


「せんぱ…。」
のだめは腕を下ろしたまま、硬直したように固まっていた。
「せん…そんな…なんで…。」
涙混じりの小さく訴える声が聞こえて、俺ははっとして腕の力を緩ませた。
のだめは俺の胸の辺りのシャツをぎゅっと握った。
握った手はプルプルと震えている。
「ごめ…ん。」
「どうして…だって…。」
のだめは俯き、額を俺の胸に押し付けた。
身体中に力が入り、肩がプルプル震えていた。
「悪かった…。」
俺は急に罪悪感でいっぱいになった。
「…ひどい……です…。」
消えそうな声で、力無くそう呟いた。
「のだめ…。」

その声があまりにも切なくて、胸が締め付けられた。

 プルルルル…。

携帯の着信音が鳴り響いた。

着信表示はオケの事務所からだ。戸惑いながら電話を受ける。
「…あ、はい。千秋です。え?今から…ですか?」
のだめは顔を上げた。
「え、でも…。あ、はい、わかりました。」
俺は電話を切り、のだめの方を見た。

のだめは穏やかな表情でこっちを見て微笑んだ。
「雨…止んできましたね。あの…のだめ、電車で行きますね。」
のだめは窓の外を見上げた。
「え、でも…。」
「途中で本屋さんにも寄りたかったんです。だから、電車の方が都合いいんです。」
不自然なくらい明るく大きな声で、そう言った。
それでも、躊躇してる俺を見て、のだめは言葉を続けた。
「先輩は新しいオケの事に集中してください。のだめ、期待していますから…。」
そう言って、俺の目を見てにこっと笑った。
「雨宿りできてよかったです。ありがとうございました。」



車の外に出ると、雲の合間から太陽の光りが差し込んできた。
雨は少し残っているものの、この分ならすぐに止みそうだ。
「傘、持っていくか?」
「大丈夫です。駅はすぐ側ですから。これ、ありがとうございます。使い終わったら、すぐにお返ししますね。」
紙袋の中を見ながら、のだめは言った。
「別に気にしなくていいから…。本当に、悪かったな…。」
のだめは俺の方を真っ直ぐに見つめた。
「いいえ…。では…先輩。お元気で…。」
「お前も…頑張れよ。」
のだめは精一杯の笑顔を俺に見せると、振り返って前へと歩き出した。



小鳥のさえずりと蝉の騒々しい鳴き声が再び戻ってきて、辺り一面騒々しくなる。
水分をたっぷりと含んだ地面からは、姿を現した太陽の熱によって湿気の多い空気となり、肌に纏わり付いてくる。



俺はただ、あいつの後姿が小さくなるの、じっと見つめていた。


 


 



ポタリ、ポタリ…

木の葉にくっついていた雨水が、風で揺れるたびに水溜りに落ちていく…。
空を見上げると、先程まで覆っていた重たい黒い雲がなくなっていて、青空が広がり、柔らかそうな白い雲が浮かんでいた。
 
    …さっきまでの事が、嘘みたいですね…。

のだめはまだ湿っている自分の腕を、反対側の手で摩った。

    …雨で濡れた身体も、洋服も…髪の毛だって…すぐに乾きますよね…。

再び空を仰ぐ。空気が雨で洗われて澄んでいる。

    …もう、雨は止んでしまったのに…。

暖かい風が冷えた身体を包み込む。

    …どうして瞳が曇るんでしょうか…。

 
ポタリ、ポタリ…


    


 「もう……会わない方が、いいのかもしれませんね…。」

 
ポタリ、ポタリ…






スタジオに着くと、スタッフの人達がのだめの姿を見て驚いていた。
「どうしたの、のだめちゃん。濡れちゃったの?」
「あ、はい。雨に降られちゃって…。」
あらあらと言って、タオルを探してくれた。
「まあ、きれいなブーケ。結婚式に出てたんですか?」
若いスタッフの女の人が、のだめの手にあるそれを見て言った。
「あ、はい。そうなんですよ…。」
のだめはちょっと考えて、その人に向かって言った。
「これ、ここに飾ってください。」
「え、こんな貴重なもの、もったいないですよ。」
「いえ、のだめ最近家にいる時間が短くて…。手入れもできないから、枯れちゃいそうなんですよね。それじゃあ可哀相ですから…。」
そう言って手渡した。
「え、本当にいいんですか?じゃあ、飾っておきますね…。」
「はい、よろしくお願いします。」
のだめは頭をピョコンと下げた。



「のだめ。もう来たの?」

後ろから聞き慣れたフランス語が聞こえた。
振り返るとリュカが立っていた。
長袖の少し大きめのシャツをラフに着こなしていて、珍しく眼鏡をかけていた。仕事に入り込んでいる姿だ。
今日は夕方まで本国の会社の人と、来年発売されるCDの打ち合わせ、って言っていた。

彼はもう次の仕事が決まっている。

「どうしたの?」
そう言いながら、のだめの方へ近づいてきた。
「あ…ちょうど外を歩いている時に、雨に降られちゃって…。」
リュカはのだめの前に立ち、頭にそっと触れた。
「結構、びっしょりだよ。着替えた方がいいんじゃないの?着替えある?」
「あ、はい。あ、でも、これはフォーマルだから…。結婚式だったんですよ。」
俯きながらそう言うと、リュカは後ろのスタッフの人に英語で話しかけた。
「誰か、着替えもっていない?」
「ジャージとTシャツでよければあるわよ。色気ないけど…。」
若い女の人が、そう言ってくれた。
「着替えておいでよ。風邪ひいちゃうよ。」
リュカは優しくそう言って、掌でのだめの頬を包みこんだ。

「ん、どうしたの?」
「…いえ、じゃあ、着替えてきますね。」
そう言って、のだめは借りた服を抱えて、奥の控え室に入っていった。

リュカの手は先輩の手より少しだけ体温が高くて、春の陽だまりのような温もりだった。
彼はいつでも温かくのだめを迎えてくれる。
昔も今も、あんな事があった後でも、やっぱりそれは変わらなかった。

…時々、その温もりに身を委ねてしまいたくなる…

ただ、温まりたい…それだけの為に…。



「のだめは…弱虫ですね…。」

鏡に映る自分の姿に向かって、そう呟いた。

 

 
 

オケの会場の駐車場に着きエンジンを切ると、しばらくそのまま動けなかった。
あの時、堰を切ったように溢れ出した自分の気持ちを抑える事はできなかった。

あいつは…そんな俺の気持ちの前で立ち竦んでいた。

  そんな事、できる立場じゃないんだよな…俺…。

あいつの手を離したのは俺自身だ。
どこかに飛び立っていって見失う日を恐れて過ごすくらいなら、いっそ自分の手で失くしてしまえばいいと、俺が手放した。
なのに、やっぱり愛しくて、捜し求め続けていて、もうあの頃とはお互い違うと分かっていながらも、やっぱり、気持ちはあの時のまま止まっていて…。
あいつが大きな苦しみを抱えていた時には傍にいなくて、隣には別のパートナーを置いておきながら、
それでもあいつを求めてしまった…。
 
 
ひどい……です。
確かにひどい。最低だ。
 

あの一瞬、気持ちが通じ合ったような気がした。
 
でも、それは、身を切り刻まれるような痛みを感じた瞬間でもあった。

たとえ、今でもお互いの気持ちが向かい合っていたとしても、どうしようもできないのだ。
俺があいつに気持ちを向けることにより、あいつは大きな苦しみを感じなければならない。
それが、俺にとっては、何よりも辛い事実であった。
 
 俺は今でもあいつの事を、心の底から愛している。
 

…だからこそ、あいつを今度こそ、手放さなければいけないんだ。

今度こそ…

 
目の前のハンドルをグッと握ったまま、額を押し当てた。



そして、彩子の事も…。

彼女は、何もかも承知している。心は別の女性を追い求めながら、温もりだけを彼女に求めていた。
 
寂しい想いをさせておきながら、泣く事さえも許さずに、あんなに悲しい笑顔を俺はさせてしまっている。
本来は聡明で美しい女性である。俺なんかよりも、条件の良い相手なんてどこにでもいるはずだ。


…私は真一のお母さん役なの…

俺は傍に居る女性一人さえも、幸せにする事ができないんだ。

一度ならず、二度までも…か。何やってんだろうな、俺。
俺みたいな人間が誰かと一緒になんて…無理な話なんだろうな…。

「もう、タイムリミットだな。」

俺はドアを開け、立ち上がった。



 
 リハーサル会場は、予定時刻より早いにも拘らず人が揃っていた。
若い団員達は緊張した面持ちで、各自準備を進めていた。
空気がぴりっと引き締まっている。今日は特別だ。

観客席の後ろ側には、身なりの良い年配の人達が大勢集まり、談笑していた。
今日はこのオーケストラを築き上げていったOB達が揃う日だ。独特の威圧感が舞台に押し寄せられる。
「悪いね、千秋くん。予定より早くみんな揃っちゃって…。」
スタッフの一人が俺に声をかけてきた。
「いえ…連絡ありがとうございました。」
俺は微笑みながらそう応えた。
「テレビで見たような人が、沢山居ますね…。」
若いスタッフの男が、俺の前で呟いた。
俺は舞台袖からそっちの方を眺めていた。


「多賀谷社長、こちらです。」
後ろの方から声が聞えた。
振り返ると、長身でイタリアンファッションを品良く着こなしたロマンスグレーの男性が、マネージャーを引き連れて歩いてきた。
「千秋くん。久しぶり…。」
相変わらず、良く通る低い声。気さくな笑顔で俺の方に向かってきた。
「ご無沙汰しています。」
俺は頭を下げた。

多賀谷楽器の社長…彩子の父親だ。

「どう、調子は?なかなか苦労しているみたいだけど…。」
「ええ、まあ…そう簡単にはいかないみたいで…。」
立ったまま、俺達は会話をしていた。
あんな事があった直後にこの人と会うとは…何とも皮肉なものだ…。
「でも、頑張っているみたいだね。彩子から、ちょとは聞いているよ。」
「…そうですか…。」
彩子の名前が出て、俺はちょっと動揺した。
「…年寄り連中が色々言ってきたり…するんだろうな…。」
多賀谷さんはOB達の集まりを眺めながら、冷やかすように小声で言った。
俺は苦笑いをした。
「人間は年を取ると、変わる事を恐れるようになるんだよ。でも、そんな事に囚われずに、君みたいな若い人達がどんどん前に出てきてもらいたいものだね。僕は期待しているよ。」
そう言って、俺の肩をポンと叩いた。

「多賀谷さん。わざわざありがとうございます。」
新東響の責任者が、こちらに歩いてきた。
多賀谷さんは笑顔で握手を交わした。
「なかなか、おもしろくなってきたみたいだね。来月の公演が楽しみだよ。」
そんな事を言いながら、俺の方に向かって笑いかけてきた。
「是非、初公演にはいらして下さい…。あ、これは?」
多賀谷さんの右手にはCDらしきものがあった。
「あ、これ…。」
そう言って見せたのは「zephyr」の名前が書かれたシンプルなケース。
「プロモーション用に回ってきたんだよ。」
多賀谷さんは、にこやかに応えた。
「ゼフィールって、つい最近デビューしたピアノデュオですよね。そんなものも聴かれるんですか?」
責任者は驚いたように言った。
「うん。なかなか、面白いよ。」
「お若いですね。私にしてみたら異端というか、俗っぽいと言うか…クラッシクの分類には入らない気がして…。」
ははは、と多賀谷さんは豪快に笑った。
「確かにクラッシクという分野だけに閉じ込めておくのはもったいないと思うよ。でも、二人の音楽的才能は飛びぬけているし、確実だ。芸術的に見てもかなりレベルが高いよ。表現力も豊かだし、可能性がいろいろとあって活躍が楽しみだよね。こういうのは大歓迎だよ。」
そう語る多賀谷氏を、責任者は目を丸くして聴いていた。

「…そうそう、聞くところによると、この女性は桃が丘出身なんだって?」
「…えっ。あ、はい。そうです。」
突然話題を振られて、焦ってしまった。
「そうなると、君の後輩に当たるのか。確か28歳って聞いたけど…。」
「ええ、まあ…。」
のだめの話題を、この人と話すなんて…。
「こうやってクラッシクの分野にも新しい風が吹き、新たな分野での観客が開ける事により、活気づいていくものなんだろうな。だからこそ、このオケの新しいスタートが、今から待ち遠しくてたまらないんだよ。」
多賀谷さんはそう言って俺に微笑みかけた。

 音楽業界では常にトップクラスを走る多賀谷楽器。
そのトップに立つ人は、常に時代の流れを見極めて、受け入れていく柔軟な発想があるからこそ、その地位を不動のものとしているのかもしれない…。

「千秋くんとは、また一緒に音楽話をゆっくりしたいものだね。今度是非、うちに遊びにいらっしゃい。」
「えっ…。」
俺が驚いた顔をすると、多賀谷さんは笑った。
「こういう事言うと、彩子に怒られるんだよな。君に余計な事を言うなって言われているから…。」
「そうなんですか?」
俺は心底驚いた。
「今は大事な時だから雑音は聞かせたくないんだって…。純粋に音楽に打ち込める環境を作ってあげる事が、今の君にとって必要な事なんだそうだよ。」
 
…彩子は…。

「でも、僕は純粋に君と音楽の話がしたいだけなんだよ。本当に。まあ、家族の中の年寄りで、先走った事を言う者がいるかもしれないけど、若い人には若い人の考えがあるからね…。僕はそれでいいと思っているんだ。」
「多賀谷さん…。」
「彩子は誰に似たのかプライド高くて、気が強いし、我が儘なところも多いと思うけど、あれでもあの子なりに、君の役に立とうと一所懸命なんだよな…。」
まあ親の贔屓目かもしれないけど…と付け加えて笑った。


彩子は…あいつは…どこまでも俺の事を第一に考えてくれている…。
俺が何が一番大切なのか一番理解していて、分かっていてくれて…。
たとえ動揺して、ぶれていたとしても、信じて待ってくれていて…。

「僕は…お嬢さんには助けてもらってばかりで…本当に感謝しています。」
俺がそう言うと、多賀谷さんは嬉しそうに笑った。
「君の音楽が認められる事が、娘にとっての幸せのはずだから、是非このオケを成功させてくれよな。」
娘を思う親としての言葉だけど、と、照れくさそうに笑った。

「はい。…そのつもりです…。」

俺は彩子に何もしてあげていないし、これからだって出来る自信はない。
でも、本当に、俺が自分の進む道を邁進していくことが、彼女の幸せになるのならば、
それで、喜んだ顔を見られるのならば…。






 プルルル…深夜の電話。

「もしもし。」
「あ、真一。今日父と会ったんだって?」
「ああ。」
「ごめんね。何か変な事言っていなかった?」
電話の向こうの声が本当に済まなそうに聞えたので、俺は笑ってしまった。
「いや、励ましてもらったよ。心強かった。」
「…そう。」
はあ、と、安堵のため息が聞えた気がした。

「お前の親父さん…相変わらず、格好いいな。」
「えっ!?…一応、ありがとうって…言うべきなのかしら?」
困惑する彩子に、俺は笑った。
「今度、家に遊びに来いって言ってた。一緒に音楽の話をしようって…。」
「えっ、そんな事言ってたの!」
彩子は驚きの声をあげた。
「あ、いいのよ、気にしないで…。本当に…。」
「俺も是非、一緒に話をしたいと思ってるんだ。」
「えっ…。」
一瞬、沈黙が流れた。俺は軽く深呼吸をした。

「彩子。」
「な、何…?」
「俺、一度お前の家に挨拶に行こうと思うんだ。」
「真一?」
「オフになってからに…なるんだけど…。」
「…。」
「これからの事も…その時には、ちゃんと考えようと思う。」
「…真一。」
ここまで話すと急に気持ちが楽になった。

「当分は新東響の立ち上げの事で精一杯なんだけど…悪いな。」
「…うん。」
少し涙ぐんだ声が聞こえてきた。
「もう、いい年だもんな。お互い。」
「…何、言ってるのよ。」
二人で笑った。
「責任を持って生きていかなきゃいけないんだよな…。」
俺は自分に言い聞かせるように小さく呟いた。

「いろいろと、ありがとな。」
「…うん。」

もう、気持ちに迷いはない。
今の俺にできる事は、与えられた期待に、精一杯の思いで向かっていく事だ。

そして、それに応えてみせる。
俺を支え続けてくれた人の気持ちに、今度は俺が応えていく。

  
  「先輩は新しいオケの事に集中してください。のだめ期待していますから…。」

 
…あいつの事は…今でも心の真ん中にその居場所がある。
この気持ちは、もう誤魔化す事はできない。

でも…今はまだ生々しく感じる思いも、時間が経てば、

懐かしい思い出の一部に変わるはずだ。

 
そして、ただの音楽上の繋がりだけで穏やかにお互いが向かい合う日が、きっとやってくるはずだから…。





「今日はいい演奏だったね。」
リハの終了後、俺がスタッフからタオルを受け取り汗を拭いている時、知らぬ間に高梨さんが横に来ていた。
「えっ。あ、ありがとうございます。」
俺が頭を下げると、いつもの笑みを浮かべて、すっと通り過ぎていった。
俺が唖然としていると、後ろに居た若いスタッフが俺に笑顔を向けてきた。

あの人からこんな風に声を掛けられるなんて…俺も少し照れながら笑顔を返した。

 
認められたければ成果を出すしかない。成果を出せば認めてもらえる…。

 

 新生、新東京交響楽団の初回公演まであと2週間…。





舞台袖を通り、控え室に向かっていたら、奥の方から女性スタッフがこっちに向かって走ってきた。
「千秋さん、お届け物です。」
「え、俺に?」
白いA4サイズのちょっと厚みのある封筒を手渡された。宛名はクラッシクライフの佐久間氏だ。
「ありがとう。」
俺はそれを抱えて自分の控え室に向かった。

封を開けると楽譜のコピーの束と手紙が入っていた。

…先日、問い合わせのあったクリストファー・バートン氏の最新作の楽譜が手に入ったので、送ります。
それと、この曲に関する小さな記事を見つけたので、それも参考までに一緒に送ります…

相変わらず律儀な人だ…。そう思って、少し笑った。
半分忘れかけていたんだよな、この曲の事…。そう思いながら、袋の中から楽譜の束を取り出した。
すると、一枚のコピー用紙がひらりと舞って、足元に落ちた。
俺はそれを拾って捲った。英語で書かれた短い記事のコピーが真ん中に印刷してあった。
英語で書かれた数行の文。俺はそれに目を通した。ほんの数秒で読みきれるくらいの簡単な内容の文。


でも、俺は何度も何度も読み返した。


…どういうことだ?…


その記事の横には手書きで日付と出展元について書かれていた。
イギリスの地方誌の記事らしい。


俺は椅子に座り、両肘をテーブルに付き頭を抱えた。

日付は2009年10月…活動休止が12月って事はその前なんだよな。
のだめはその頃は師弟関係は解消されていて…。

…Plagiarism…
その単語がやけに目立って飛び込んでくる…。

 
「盗作…って…どういう事なんだ…?」


俺はその文字を見ながら、そのまましばらく座り込んでいた。

 
続く(written by 茶々)