『振り向いて』
白
いシャツ・・・は、いつもと同じ。
上にあわせるセーターはブラック。
ママが用意したチェックのセーターはクロー
ゼットに戻した。
パンツは細身のブラック。
カバンは・・・いつものレッスンバック。
取っ
ておきは、これ!
さあ、学校に行こう!
* * * *
「あれ?今日はどうしたの?なんだか・・・シックね?」
レッ
スン室に入った瞬間、先生は僕を見て笑いながら言った。
顔に書いてある。
『歳相応にしたら?』って。
気
にしないさ。
先生に褒めてほしかった訳じゃないし。
恰好よりもピアノを褒めてほしいし。
* * * *
「あら、リュカ?って、その恰好・・・」
「うん、まる
で・・・」
レッスンが終わって廊下に出たところで出会ったのは、ターニャにフランク。
僕
の姿を見て必死に笑いを堪えている。
「似合っていると、ボクは思うよ?」
「ま
あ、いいじゃない?向こうにいたわよ?」
明らかにバカにした言い草。
い
いのさ。
フランクやターニャに誉められたい訳じゃないし。
「ありがと
う、じゃあね」
二人に別れを告げ、外に出る。
きっ
と、いつもの木陰で眠っちゃっているんだ。
栗色の髪を探す。
―――いた!
芝生の上、猫のように身体を丸めて眠る僕の天使。
黒い悪
魔に『ヤツだけを見る』魔法をかけられた可哀相な天使。
僕が助けてあげるから・・・
そっ
と近付いて、起こさないように隣に座る。
起きるのが楽しみで、少し怖い。
僕の姿を見てなん
て言うだろう?
魔法は解けるだろうか?
「んん・・・ふぉ?」
「あ、
のだめ」
「リュカ?あれ?今日は・・・」
目を擦りながら起き上り、僕
の姿をじーっと見る。
「むきゃ!悲しいことあったですカ?」
「・・・
えっ?」
「だって、シロクロ」
「・・・そ、それは・・・」
「ふお、もうこんな時間!リュ
カ、また明日デス」
天使はあっと言うまに立ち去った。
天
使が去った後の木陰には、天使がある香りを残していった。
* * * *
「あ
れ、リュカ?」
「ヤス・・・」
「ん?コロンつけてる??」
「・・・僕は・・・」
僕
は千秋になりたかった。
僕は・・・のだめが欲しかった。
「リュカ?」
「の
だめと同じ香りなんだよ」
「恵ちゃん?コロンなんてつけてたんだ?」
「千秋と同じコロン買ったのに、なんでのだ
め・・・」
音楽雑誌に載っていた。
千秋が使っているコロンの話。
マ
マに楽譜を買うって嘘ついて貰ったお金。
そのお金で買ったコロン。
のだめが振り向いてくれ
るって思った。
同じ恰好すれば、同じ香りがすれば・・・
背伸びをした
んだ。
精一杯背伸びをしたんだ。
でも・・・
「の
だめは、千秋が好きなんだね」
「うん、千秋くんもね」
知ってたんだ。
そ
んなこと、知ってたんだ。
でも少しくらい期待したんだ。
「リュ
カ、初恋は実らないものらしいよ」
「誰が決めたの」
「迷信だよ」
「ふーん」
誰
でもいいや。
そんな迷信には負けない。
のだめ。
僕を選ばなかったこ
と。
後悔しても知らないんだから。
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