今日は久しぶりの先輩のお休みの日だから。
天気も良く空も青くてなんだか世界が
キラキラしてマス!
「センパ〜イ、おはようございマス!」
朝の挨拶と
ともにまだベッドで寝ている先輩の上にジャンピング・ダイブ!。
本当は朝のちゅーで起こしてあげたいんですが、先輩照れ屋さんデスか
らね。
これでも甘くなりすぎないように気を使ってるんですよ。
「げへっ!ごほっごほっ!…何やってんだー!お前
は!」
「妻の愛の重さを態度で表現してみまシタ」
「ふざけんなーっ!!」
「…っ
たく朝から胃の中の物全部吐き出すところだったじゃねえか…」
「スッキリ目覚められて良かったですネ」
「スッキ
リしてねえっ!!」
はあ…と深くため息をつきながら、先輩は煙草に火を付ける。…のだめの好きな顔デス。
「…
で、お前は今日は何しに来たんだ?」
「ハイ。先輩に一週間も会えなかったからのだめエネルギー切れなんですヨ。充電したいデス!充
電!」
「自家発電しろよ。変態ならできるって」
そう言ってまたベッドに潜り込もうとする先輩に慌ててすがりつ
く。
「センパイ!デート!デートしましょうよ!今日はとてもいいお天気ですヨ!」
「俺は今日の明け方帰ってきて
とても疲れてるんだ」
「休日のお父さんみたいなこと言わないでくだサイ〜。ねえ行きましょうヨ〜」
そんな押し問
答をしていると先輩の携帯が鳴った。
電話に出た先輩の顔がびっくりしている。
「Rui…?」
「良
かった〜。シンイチが捕まって!」
街を嬉しそうに歩くRuiの後ろをついて歩いて行く先輩とのだめ…。
はて。な
んでこんなことになってしまったのでショウ…。
「ちょうど春物が欲しくて買い物に行きたかったのよね〜」
「だか
らってなんで俺が…」
「だって一人で買い物しても楽しく無いじゃない。それにシンイチに会いたかったし!もちろんのだめさんにも
ね!」
急ににっこり笑いかけられて仕方なく笑って返す。
なんででしょう。のだめは人見知りする方じゃないんです
が、Ruiには気後れしちゃいマス。
「ところでシンイチ、ドイツ公演はどうだった?」
「うーん、まあ悪くは無
かったかな…」
先輩ものだめの言うことは一刀両断するくせに、Ruiの誘いは断れないんデスよね。
いつの間にか
先輩とRuiは二人は並んで歩きだした。
必然的にのだめはその後ろをついていく形になり。
二人の話はいつしか専
門的な話題となりのだめにはチンプンカンプンです。
たまにRUIや先輩が振り返って「ーそうでしょ、のだめさん」「ーだよな?のだ
め」と言ったりするのに「ハイ」と笑って答えるのが精一杯。
ー別にいいんデスよ。
ーのだめは先輩の妻デスから
ね。
ーもっと余裕を持たなきゃ。
それでもキラキラ輝いていた気持ちがどんどんどんどんしぼんでいって…。
「こ
こに入ろう!」
と言ってRuiが入って行ったのは有名ブランドのお店。
ふお〜〜値段がものすごいデス!とても庶
民が買えるような洋服じゃありません!。
「これとこれと…あとこれを試着してみようっと!」
次々と高そうな服を
選んでいくRui。
先輩は退屈そうにふあ〜っと欠伸をしていマス。
「ねえ、のだめさんも試着してみない?」
「へ?」
急
に言われてもあせりマス。先輩の方をチラッと見てみると
「…別にいいんじゃねえの?着るだけならただだし」
「の
だめさんにはねえ…これが似合うんじゃないかと先刻から思ってたんだ!」
そういってRuiが渡してくれたのは淡いピンクのキャミワン
ピ。
値段を見るだけで頭がくらくらしマス。
まあ、でも着てみるだけなら…と思って試着室に入って着てみると。
ぐ
え…これって…結構体の線が出るんですね…。薄い素材でできてるから透けてるし。
むき〜!!は、恥ずかしい!。
「の
だめさ〜ん、着てみた?開けるよ〜」
「あ、あ、あうあうあう、ちょっと待って」
シャッ勢いよくカーテンが開かれ
て先輩と目が合う。こうなったら開き直るしか…。
「セ、先輩!ど、どうですか?ムラムラしませんか〜」
得意のセ
クシーポーズデス!。
「似合わない…」
先輩がため息をついてポツリと一言。
…がーん!
「そ、
そんなことないよ!よく似合ってるよ、のだめさん」
「あーお前にはこういうブランドの服とかやっぱ似合わないな。なんだか無理してる
みたいで格好悪い。
ヨーコの作ってくれる服がお前には合ってるよ」
「ヨーコって誰?」
「の
だめの母親。裁縫が趣味でこいつの服は皆手作り」
「へー…そうなんだ」
「…ヨーコブランドは最高ですヨ〜。先輩
もなんだかんだ言ってフォーマル着てるじゃないデスか!
あ、今度Ruiにも作ってもらいますネ」
じゃ、着替えマ
スと笑ってシャッとカーテンを閉めた。
下を向いてぐっと唇を噛みしめる。
…こんなことくらいじゃのだめは泣きま
セン。
店を出てまた話しながら並んで歩く二人の後ろをぼーっとしながらついて行く。
先輩に
笑いながら話しかけるRuiの横顔はとてもきれいで眩しくて。
溢れるばかりの美貌と才能。
世界中から認められ愛
されているその存在ー。
「あ、そうだ」
二人が同時に振り向く。
「のだ
め、学校の課題曲があったんですヨ。あしたまでに出来るようになってないと先生に叱られマス」
「お前、朝はそんなこといってなかった
じゃないか」
先輩は明らかに不審そう。
「少しでも長く先輩と一緒にいたかったんデス。でもさすがにもうヤバイ
し…」
「え〜、のだめさん帰っちゃうの?これから皆でカフェに行こうと思ってたよ!」
「すみません、先輩と行っ
てあげてくだサイ。Rui、会えて嬉しかったデス!
また今度のだめとも遊んでくだサイ!」
手を振って背を向けて
歩き出す。
先輩がじっとこちらを見ているのがわかりマス。
あう〜。きっと嘘をついていることはバレバレなんで
しょうね…。
「…グミ、メグミ!」
誰かから呼ばれてはっと顔を上げる。
そ
の予定はなかったんだけどあれから結局、学校に来てずっとピアノ引いてたんだっけ…。
声を掛けてきた男の人を見る。
えっ
と…同じ学科の…。
「ポール?」
「ピエールだよ。まだ名前覚えてくれないんだね」
ハハハッ
て笑う。
「ずいぶん熱心に弾いてたね。でももう外は真っ暗だよ」
時計に目をやると…。ぼへぇ〜もうこんな時
間!。全然気づかなかった…。
「練習熱心なのはいいことだけど、もう終わりにしたら?
おいしいパスタの店を知っ
てるんだけど、良かったらこれから一緒に行かない?」
そういえばお腹空きましたネ。
いつもなら先輩に「ご飯作っ
てくだサ〜イ」っておねだりするところデスが、今日はその気分じゃないし…。
「あ、ハイ。一緒に行きマス」
「楽
しいですネ〜!世界がグラグラ揺れてますヨ!」
食事の時に飲んだワインが結構おいしくて、いつもより飲み過ぎたみたいデス。
周
りの景色が蜃気楼みたいに見えて、トランポリンの上を歩いてるみたい。
「大丈夫?メグミ。」
転びそうになったの
だめをピエールが支えてくれる。
「かなり酔っぱらっちゃったみたいだね。僕のアパルトマンここから近くにあるから少し休んでお茶でも
飲んで行くといいよ」
「はぅ〜すみません。ではそうさせてもらいマス」
そう言って彼について行こうとしたその
時。
「のだめ!!」
振り返ると…千秋先輩。
なんだかすごく息を切らしているし、髪や服が乱
れてマス。どうしたんでしょうか?
「先輩、偶然ですネ。あ、そうだ。こちらは同じ学科のポールデス。…ピエールだっけ?
こ
れからお家でお茶をごちそうしてくれるそうなので、先輩も一緒に行きませんか?」
…って、ピエール、いない。いつのまにかいなくなっ
てる。
「あれ〜おかしいですネ〜。さっきまでいたんデスけど…」
「っ…この馬鹿のだめ!!」
ば
しっ!思いっきり頭をはたかれる。
強い衝撃でぐらっと揺れた。
「ー痛いじゃないデスか!いきなりひどいデ
ス!!」
「いいから来いっ!!」
そのままタクシーに押し込まれ、強く手を引かれて先輩の部
屋のバスルームに直行する。
シャーッ。
頭を押さえつけられて上からシャワーを浴びせられる。
「つ、
冷たっ!先輩、これ水!これ水デスよ!」
「うるさい!!少しは頭を冷やせ!」
容赦なく降り注ぐ身を切るような冷
たい水。
「酔っぱらって男の家に上がり込んで、どうなるかわからない歳でもないだろう!
お前、いったい何やって
んだ!」
いつの間にかシャワーは止まってて。
ぽたぽたと髪からしたたり落ちる滴の音がバスルームに響く。
そ
のとたん猛烈な吐き気に襲われて隣にあるトイレにしがみついた。
「うぇ…。先輩、きぼち悪い…」
「自
業自得だ」
胃の中のものを全部吐き出した後、先輩に着替えを借りてベッドに横たわる。
「…全然動けまセン…
ちょっとでも動いたらまた出そう…」
「だから自業自得だと言ってるだろう」
そういいながらも先輩はタオルを放っ
て投げてくれる。
そのタオルを強く押しつけて顔が見られないようにする。
「…先輩…」
「な
んだ」
「…のだめ…本当に格好悪いですネ…」
「…」
「…勝手に拗ねて、他の男の人につい
てって、酔っぱらってゲロ吐いて…ホントに格好悪いデス…」
最後は声がかすれた。
目頭が熱くなるのがわかり、タ
オルがあって良かったと思う。
嗚咽が漏れないようにするのが必死で。
ーと。
すとんと先輩が
ベッドに座る気配がした。
「…あれから俺が何してたと思う?」
「…?」
「すぐにRuiと別
れて部屋に帰った。お前からの連絡待ってたけどいくら待ってもかかってこないし、
携帯にかけても全然通じないし」
あ、
電源切ってたの忘れてた。
「そのうち暗くなるし心配になって、ターニャ、黒木くん、フランク、ポール、リュカ、心当たりを
片っ
端から電話した」
「…」
「学校までの道順は三回くらい往復したし、公園や美術館とか行きそうなところを歩いて今
の今まで探し回った」
「…先輩…」
「…格好悪いのは俺の方だ」
沈黙が部屋を包みこむ。
…
二人ともずっと無言のままで。
「それから…これ」
ガサガサと音がするので、タオルを顔からはずし目を開けると、
先輩から紙袋を手渡された。
「?」
開けてみると…中にはピンクのワンピースが入ってた。
昼
間、先輩に似合わないって言われた奴…。
「Ruiと別れてこっそり買いに行こうと思ってたら、あいつも買い忘れたものがあるって戻っ
てきて、
シンイチ素直じゃないね〜ってゲタゲタ腹抱えて大笑いされて…くそ」
後ろを向いてるから先輩の表情はわ
からない。
でもここから見える首筋はほんのり赤くなってて。
「…先輩…」
「そんな露出の高
い服着せて、外歩かせる訳にはいかないからな!部屋着にしろ!」
「…でもこのワンピースすごく高かったデスよ?部屋着にするのはもっ
たいないデス…」
「だからこれから一年クリスマスもお前の誕生日も何もナシ」
「ぎゃぽーっっ!!それはひどいデ
ス!!」
終わり