コンクールの後で
あ
る日突然あの女はやって来た。
ピンポーン
チャイ
ムが鳴り、真澄は一人暮らしのアパートの玄関に出てドアを開ける。
…にこにこと満面の笑みを浮かべて立っているのだめの姿。
ガ
チャン。そのままドアを閉める。
ピンポンピンポンピンポーン!!
「真
澄ちゃーん、出て下さいヨ〜。のだめですヨ〜」
ピンポンピンポンピンポーン
騒
音に耐えきれずドアを再度開ける。
「ーうるさい!!人がせっかく見なかったことにしようとしているのに!」
「何、
冷たいこと言ってるんデスか」
「さっさと帰りなさい、亡霊!!」
しっしと手を振って追い払
おうとするが。
「そんなつれないこと言わないでくださいヨ〜。今日は真澄ちゃんと水入らずで飲もうと思って」
「ー
何が悲しくてあんたみたいなひょっとこ娘と顔つき合わせて飲まなきゃいけないのよ。
だいたいなんであんた、私の家知ってるのよ!」
「前
に峰くんからだいたいの場所を聞いてたので、この辺かなあ〜っと思って散歩がてら探してたんデス。
そしたらちょうど目の前にあったの
で、来ちゃいました。キャハ!」
「ーキャハ!じゃないわよ。この変態!!」
千秋はこの変態
の訳の分からない強引さにいつも押し切られているのだろうと改めて感じる。
ここで負けたら…一度でも侵入を許してしまったら…安住の
地がのだめ菌によってずるずると汚されていくのは目に見えている。
それだけは絶対に避けなければ!
「手
ぶらじゃないデスよ。ほら」
そう言ってのだめが差し出したのは、いかにも高級そうなワイン。
「…
どうしたのこれ、まさかあんたが買ったわけじゃないわよね」
「ハイ。千秋先輩の部屋にあったのをこっそり持って来ましタ」
「っっっ
あんたっそれって泥棒じゃない〜!!」
のだめの首に手を掛けぎりぎりと絞める…。
やはりこ
の女…ここで殺っておかなければ(マジ)。
ふと白目をむいているのだめの足下に、大きなボストンバッグがあるの
に気づいた。
「何、あんた旅行でもするの?」
ゲホゲホと喉をさすりな
がらのだめは真澄の視線の先に目をやる。
「…あー…。のだめ実家に帰ろうと思って…」
「え?」
「…
えっと…、そうお正月!もうすぐお正月ですからネ」
なんだそういうことか。
でも、今一瞬目
をそらしたような気がしたが気のせいだろうか。
「じゃあさっさと九州に帰りなさいよ。ていうかなんでうちに寄っ
ているのよ!」
「あーそれはですネ。…いざ帰るとなると寂しいというか、少しでも長く千秋先輩のいる東京にいたいっていうか…」
「訳
わかんないから」
「この切ない気持ち、真澄ちゃんならわかってくれますよね〜」
「知るか!とっとと帰れっ!塩ま
くわよ!!」
「ふおぉぉぉぉーっ!!ここが真澄ちゃんのお部屋ですか〜!!きれいデスね
〜!!」
部屋の中を無遠慮に歩き回るのだめの背中を見ながら、真澄は座り込んで頭を抱える。
…
なんでこんなことになってしまったのだろう…。
奥山真澄一生の不覚!こんなノロウィルスのような女を部屋に入れてしまうなんて…。
「ふぉぉ!
これは!」
のだめが棚に置いてあった千秋の写真立てにかじりつく。
友達に頼んで隠し撮りし
てもらったものだ。
「それは、私の宝物よーっ!汚い手で触るんじゃないわよっ」
「…くだサ
イ」
「は?」
「…のだめそのアングルは持ってないンデス。…はうん…素敵な写真です…」
「…
このっ馬鹿女ーっ!!」
バコンッ!!。
思いっきり後ろ頭に回し蹴りをいれるとジャストヒッ
トしたらしくそのまま倒れ込んで動かなくなってしまった。
「…とにかくさっさと飲んで帰ってよね。私だって
R☆Sオーケストラの練習で忙しいんだから」
「そうデスか…」
またのだめの表情が曇る。
な
んだか妙な違和感を感じたが、とりあえずワイングラスを2個出した。
つまみは冷蔵庫にあったハムとチーズだ。
「…
おつまみこれだけデスかー。千秋先輩ならさっさっさーっと2,3品呪文料理作ってくれるのに…」
「ー文句があったら食べなくていいわ
よ」
ギリギリ。のだめの口に指を突っ込んで左右に頬を引っ張る。
「…
ひえ…らにもありまへん…」
ワインは思いの外美味しかった(千秋の所
有していた物だから当然だ)。
それにしてものだめの飲むピッチは早い。
いつの間にか一本開け、真澄の所有してい
た秘蔵のウィスキーも開けさせられる。
ーこの子、酒には弱いんじゃなかったかしら。
真澄は首をかしげる。
そ
していつの間にか顔を真っ赤にさせて酔っぱらったのだめが真澄に絡んできた。
「ますみちゃ〜ん、のだめ、千秋先
輩のことがダイダイダーイ好きなんデスよ」
「言われなくてもあんだけ金魚のフンみたいにまとわり付いてればわかるわよ。ーまったく
うっとおしいったらありゃしない」
「イエ!わかってないデス!のだめはこ〜んなに好きなんデス」
両
手を思いっきり広げた。
「あのねえ…酔っぱらいを相手にするつもりはないけど、私だって千秋様の好きなのよ。こ
〜んくらい!」
腕をブンと大きく回す。くだらないことでムキになるあたりなんのかんの言って真澄もかなり酔いが
きているらしい。
「のだめはもっとデス!」
「私だってもっともっとよ!」
二
人で張り合って腕をぶんぶん回し続ける。すくっとのだめは立ち上がった。
「のだめはこの部屋のこの端からあっち
の端まで好きなんデス!」
そういって部屋をバタバタと駆け抜けようとする。
「あ…
ちょっと」
ガツン!
「むきゃ!」
や
はり足下がおぼつかないのだろう、つまずいて本棚の角でしこたま頭を打つ。
のだめは頭を押さえてしゃがみ込む。
「…
い、いった〜いデス」
「あんた…飲み過ぎよ」
真澄はため息をついて携帯電話を手に取った。
「も
うこんな時間じゃ飛行機も電車もないでしょう。千秋様に迎えに来てもらうから(かなり不本意だけど)
アパートに帰りなさい」
そ
ういって真澄が電話をかけようとしたとたん、さっとのだめが携帯を奪い取った。
「なっ何するのよ、あんた!」
「駄
目デス!」
「駄目って…」
「千秋先輩には絶対連絡しないでくだサイ!」
「…
絶対連絡しないで…ってどういうことなのよ」
のだめは下を向いたまま答えない。
「な
んだか…いつも変態だけど今日はよりいっそう様子がおかしいし…もしかして千秋様と何かあったの?」
「…別に…何にもないデス…」
思
いっきり目をそらしている。明らかに嘘だ。
「じゃあ、千秋様に確認してみるから携帯返しなさいよ」
そ
う言って真澄は携帯を取り上げようと試みるが、のだめはむきゃっと激しく抵抗する。
「駄目デス!駄目デス!」
「じゃ
あ、訳わかんないこと言ってないでちゃんと説明しなさい!」
観念したのかのだめは向き直ったが、どうにも言いづ
らいらしく口をとがらせてあーとかうーとか言っている。
あまりのはっきりしない様子に真澄がしびれを切らしかけた時、のだめが口を開
く。
「…のだめ…千秋先輩から一緒にヨーロッパに行かないかって言われたんデス」
頭
が真っ白になるというのはこのようなことを言うのだろうか。
のだめの言ったことの意味が一瞬理解出来なかった。
…
千秋様が…のだめに…ヨーロッパに行こうって…それって。
「えええええええーっっっっ!!」
真
澄は顔色を変えて叫ぶ。
「ええーっ!ちょっと…千秋様ヨーロッパに行くの?…いや、そんなことよりあんたに一緒
に行かないかって…
ーあんた達いつからそんな関係になったの!」
「…関係って?」
「一緒に
留学するなんて…そんな恋人とかそんなの通りこしてるじゃない!」
「…真澄ちゃんの言っていることよくわかりまセン…」
の
だめは顔をしかめると、ため息をついて口を開く。
「のだめこないだコンクル出たんデスよ」
へ?
コンクール?今の話の流れで何故コンクールが出てくるの?。
「江藤先生がマラドーナコンクールに出なさいって言
うからのだめ出たんデス」
ああ、そういえば誰かピアノ科の学生がそんなことを言っていたような…。
の
だめがコンクール?似合わないわねーとかなんとか言って終わったような気がする。
だって興味ないし(ヒドイ)。
そ
んな話どうだっていいからとにかく留学のことについてもっと詳しく説明しなさい!と口に出そうに
なるのを真澄はぐっとこらえる。
「の
だめ…優勝したくて頑張って練習したんデスよ…」
「…」
「…頑張って、頑張って、…でも…駄目でした」
そ
れはそうだろうと思う。
のだめの演奏は真澄も聴いたことは数回ある。
確かに、技術は高度だし迫力はあるし…何か
人を惹きつけてやまないような、そういうものは確かにある。
だけど、楽譜通りに弾かないし好き勝手に作曲する、そんな人間が勝てる訳
がないのだ。
コンクールというものはそんなに甘くない。
「…そしたら…先輩がヨーロッパに
行かないかって…」
ーだからどうしていきなりその流れでそういうことになるのよ…。
「お
まえには向こうの方がのだめには合ってると思うって…変人にも寛容らしいデス…」
変人って…まあ、確かに…。
ー
なるほど。
それを聞いて何となく話の流れは掴めてくる。しかし。
「ーそれであんたは何て答
えたの?」
重要なのはそこだ。
のだめは顔を上げずに俯いたままぽつりとつぶやいた。
「な
んで?、って言いマシタ」
「ーえ?…えーっっ!!」
真澄は心底驚いた。
衝
撃の度合いから言えば先ほどの留学発言よりショックが大きいかもしれない。
「ーあんた…何てこと言ってるのよ。
千秋様がそんなことを言ってくれるなんて百万年に一度くらいの確率じゃないの!!
…それをみすみす…」
真
澄は呆然とする。
…まさか…のだめがそんな返事をするなんて。
のだめは動かない。
下
を向いているのでその表情はわからない。
「…真澄ちゃん…のだめ…本当にわからないんデス」
「わ
からないって…何が?」
「…千秋先輩は、のだめを上へ上へ引っ張り上げなきゃっていう…なんか使命感みたいなものがあるみたいで…
…
それは…すごくありがたいんデスけど…時々…すごく重くて…」
「…」
「…どうして今までみたいに自由に楽しくピ
アノを弾いていっちゃいけないんでしょう…
…どうしてヨーロッパまで行って、知らない土地で知らない言葉の国で勉強しなきゃいけない
んでしょう…」
「…」
「…だって…音楽って…楽しいものデショ?
のだめ…コンクルの練習し
ている間…とても…つらかったデス…全然楽しく無かったデス…」
まるで何かに取り憑かれたかのようなあの時のこ
とを思い出した。
後ろから追い立てられるように、食べることも眠ることもピアノを弾く以外の何もかもが出来なくて。
曲
の世界に入りたくてこじ開けようとするけれど固くその入り口は閉ざされている。
…一人悩み…もがき苦しみ…痛めつけられ…翻弄され
る。
そんなことをこれから先もずっと続けていかなければならないのか。
いつか黒木が言って
いた言葉を思い出す。
『音楽やってて…単純にうまくできたら嬉しいし、もっとうまくなったらもっと楽しいんじゃ
ないかって』
『もっと音楽に正面から向き合わないと本当に心から音楽を楽しめまセンよ』
そ
れを言ったのは…ミルヒーだっただろうか。
そして偉大なる音楽を奏でる黒髪の指揮者の広い背中を思い出した。
も
どかしさに胸が締め付けられる。
…もう少し…あと少しで何かが掴めそうなのに。
「…
私にはあんたの言っていることの方がわからないわ」
真澄はポツリとつぶやく。
「…
確かに練習は楽しくないし、とても…つらくて厳しいわ。
だけど一度舞台に上がれば、それまでのつらさが吹き飛ぶくらいの素晴らしい感
動が待ってるって私は知ってる…。
…あんたは知らないの?」
「…」
「…あんた…コンクール
でピアノを弾いたんでしょ?本当に楽しく無かったの?」
「真澄ちゃん」
のだめがはっとした
ように真澄を見る。
千秋と同じ言葉。
コンクールでピアノを弾いた時のことを思い出す。
あ
の時客席から聞こえてきたたくさんの拍手の渦…賞賛の嵐…観客達の満ち足りた幸せそうな顔…顔…顔。
ーのだめは
両手で顔を覆い隠した。
「…のだめ……わかりまセン……ホントに…ホントに…わからないんデス…」
頭
の中がぐるぐると回る。
真澄は深くため息をついた。
「もういいわ。あんたの空っぽな頭でい
くら考えたって混乱するだけよ。
ーほら、タクシー呼んであげるからいいかげん帰りなさーうわっ!」
い
きなりのだめが真澄の首にすがりついた。
「なななななな…何やって…」
突
然のことに動揺して言葉にならない。
また風呂に入ってないのだろう、のだめは石鹸の香りではない女性本来の生臭い体臭がする。
だ
けどそれは意外にも不快ではなく真澄は今まで感じたことがない気持ちになる。
「ちょ…ちょっと…離れなさいっ
て…」
引き離そうとするけれど、細い体のどこから出てくるのだろうと思うほどの強い力でぎゅうぎゅうとしがみつ
いて離れない。
ーこのっ馬鹿力!。
「…ま、すみちゃん…」
不
意にのだめが離れ、真澄に顔を向ける。
真澄のシャツをきゅっと掴むと顔をくしゃくしゃに歪める。
「…
どうしよう…どうしよう、真澄ちゃん…先輩が遠くへ行っちゃうよお…」
目からは大粒の涙がぽろぽろと惜しげもな
くこぼれ落ちる。
「…のだめ…」
「…のだめ…先輩に追いつきたくて…
追いつきたくて…」
「…いっしょうけんめい頑張ったのに…」
それなの
に。
「…駄目だった…駄目だったよー…」
こらえきれないようにしゃく
り上げると、そのまままた真澄の首にしがみついた。
真澄は呆然とする。
今、自分の肩で震えながら声をあげて泣い
ているのは、本当にのだめなのだろうか。
あの、いつもがさつで大食いで無神経で元気だけがとりえの、のだめなのだろうか。
「…
もう…追いつけない…」
真澄は泣いているのだめの肩に手を伸ばしかけて…やめる。
こ
んな時、普通の男なら優しく背中を抱いてキスしてあげるのだろうか。
ーだけどそれは自分の役目ではない、と思う。
そ
してあの彼の役目でもない。
のだめはそれを望んでいない。
何故ならこれはのだめが自分の力で、一人だけで、乗り
越えなければならない壁だからだ。
…それでも。
自分の肩を濡らしている彼女がとても小さ
く…頼りない存在に見えて。
その涙を止めてあげたい、と思った。
「…のだめ…」
真
澄は優しく声をかける。
「…何言ってんのよ…。
…あんたはね、いつもみたいになーんも悩み
が無いようなアホ面で、千秋様の迷惑をかえりみずにまとわりついて、
むきゃーとかうきゃーとか奇声をあげてればいいのよ」
そ
れも腹が立つけど、と真澄は笑う。
「…もう泣くのはやめなさい…。あんたは今の自分にできることを精一杯やった
んでしょう?だからーそれでいいじゃない」
この声は届かないのかもしれない。
実際、しゃく
り上げる声は止む気配がない。
それでも真澄は言葉を続ける。
「これからのことはゆっくり考
えればいいわ…。あんたが思っているよりも時間ってたくさんあるのよ」
「…ま、すみ、ちゃん…」
「大丈夫。…千
秋様は…私達が来るのをちゃんと待っててくださるわよ」
何度も何度も振り返りながら、時々立ち止まって心配そう
に見守って。
つまづいて転んでばかりいる彼女に手を差し伸べようとして…それはしてはいけないとやっぱり我慢して。
「大
丈夫」
ー本当は他にも言ってあげたいことがあった。
いつも冷静沈着な彼が、彼女のことをと
ても優しい目で見ている時があるのだということを。
限りなく愛しいものを見る、眼差しで。
次の瞬間には平然とし
た普段の彼に戻っているから、いつも彼のことを見つめている真澄にしかわからないだろう。
でも、それは今は言わない。
彼
自身がまだ自覚できてないであろう気持ちを言う訳にはいかない。
ーそれに。
敵
に塩を送る訳にはいかない。
ーだってライバルでしょ?
「ほ
えぇ…」
のだめは目覚めると自分の部屋のベッドではないことに気づいた。
「こ
こは…どこですかネ?」
「ー何よ。…目が覚めたの」
思いきり不機嫌そうな声が聞こえる。
見
ると隅のソファーで毛布にくるまっている真澄がゆっくりと起きあがった。
目にはクマが出来ていて、赤く充血している。
「?ー
真澄ちゃん?…?」
それからのだめはポンっと両手を打つ。
「ああ、そ
うか。昨日のだめは真澄ちゃんと飲もうと思ってここに来たンですよね。
それから…それから…」
首
をかしげる。
「…それから…はて、どうしたんでしたっけ…?」
ー
ちょっと待て。
「…あんた…まさかとは思うけど…」
「何も覚えてないデス!」
ばっっっ
しぃん!!
「ー殺すーっ!殺してやるーっ!この馬鹿女ーっっ!!」
「ー
ようするに、あんたが酔いつぶれてがーがー寝ちゃったもんだから し・か・た・な・く 泊めてあげたのよ。
まったく…人のベッドを占
領して…あつかましいったらありゃしないわ!」
「じゃあ真澄ちゃんとのだめは一夜を共にしたんデスね」、
「ヒィィ!!ー
そのおぞましい言い方を止めてーっ!!本当にほんっとーになんっにもなかったんだから!」
のだめの首をねじり上
げ、がくがくと揺する。
「…あんた…そのことを他の誰かに言ってごらんなさい…。ただじゃ置かないからね…」
特
に千秋に知られたらと思うと…微妙なことになりそうで考えるのも嫌だ。
「ハ…ハイ。絶対誰にも言いまセン…」
あ
まりの真澄の剣幕にさすがののだめも恐れをなしたようだ。
真澄はのだめの首もとから手を離すとはーっと深いため息をついた。
…
まったく…この女は…。
「…真澄ちゃん」
不意にのだめが声をかける。
「ー
何よ」
「ありがとう」
「え?」
「…
よくわかんないんですケド…なんだか少しスッキリしたような気がしマス」
「…」
まだ顔色は
いいとは言えない。
完全に立ち直るにはまだまだ時間がかかるだろう。
でも、いつもののだめ
だ。
「…起きたのならとっとと実家に帰りなさいよ」
「あーそうでした。でもなんだかお腹空
きましたネー。真澄ちゃん何か食べさせてくだサイ」
「っっっっっふざけるなーっ!九州から二度と戻ってくるなーっ!」
「はっ!
のだめがいない間に先輩を誘惑するつもりですネ!ムキャー!許しまセン!!」
そしてこのし
ばらく後
「先輩とヨーロッパに行くことになりました☆」
と脳天気に報
告してきたのだめに、あの時とどめをささなかったことを真澄は激しく後悔した。
終
わり。