会 場の外は熱を持った湿った空気で覆われている。
もちろん、室内は快適な湿度や温度に保たれているのだが、
今はそ の重たく湿った夏の夜の空気さえも心地よく感じるような、そんな気がした。

 

ま なつのよるのゆめものがたり 7

 


「のだめちゃん、こっちよ…。」
清良は手招きをして、あらかじめ とっておいた席へと案内をした。

さっきまで楽屋で二人、散々泣いていた。なので、頬や鼻の中や、目がまだ熱を持ってヒリヒリしている。
お 互い顔を見合わせると、あまりの顔に笑ってしまう。

のだめはいつもの薄手の綿素材のワンピース姿になっていた。
観客席の中を通っていく姿 は、ちょっと前まで見ていた舞台の上とは全然違う人だ。
誰もが気が付いていない。


「ふう、間に合った。」
「はい。」
そう言っ て、清良は鞄の中からプログラムを取り出した。

「ふふ、『夏の夜の夢』…か…。」
清良は呟いた。


のだめは舞台の上をじっと見つめていた。
目を輝かせて、身体を少 し緊張させていて…高揚した表情。

まるで、恋しい人を待っている姿…


清良は微笑んだ。

千秋くん、ごめんね。
そう心で謝って…

 


会場は徐々に静寂に包まれていった。

 


「…夏の夜に相応しい選曲だね。面白い。」
佐久間は嬉しそうに千 秋に話しかけた。

「…え、あ、そうですね。」
「ん?」

 

パチパチパチ…
拍手が沸き起こった。

舞台の上にはオーケストラのメンバーが揃っていた。

そして、舞台の袖から燕尾服姿の松田さんが現れた。

さっきまでとは違った表情…。
どこか楽しげで、どこかいたずらで、

のだめはクスッと笑ってしまった。

たまにそういう表情をするんですよね。
とっても真面目な顔をしていたかと思うと、突 然、ユニークな顔をして…。


もう舞台から降りてしまったけど、
でも、まだ、あの中にいるよう な気がする。


まだ、夢は終わっていないんだ…。

 

 

 


リムスキー=コルサコフ  交響組曲 「シェヘラザード」

 

千一夜物語の語り手、シェヘラザードの物語をテーマとした作品。 


妻の不貞を知り女性不信となったシャーリアール王は、国の若い女性と一夜を過ごしては 翌朝処刑していた。それを止めさせるために大臣の娘シェヘラザードは自ら王に嫁ぎ、千をもの夜に渡って王に物語を語って気を紛らせ、終に殺すのを止めさせ る事を成し遂げた。


  第一楽章 「海とシンドバットの船」

導入部は力強いシャーリアール王の主題から始まる。
そして、ハープ伴奏の独奏ヴァイオ リンが、シェヘラザードの主題を示す。

妖しく、艶かしく、どこか幻想的な、シェヘラザード…。
女性的な色を持つ高橋のヴァイ オリン・ソロに、会場の空気は酔いしれる。

 

「おお、幸多き王様よ、私の話を聞き及びましたところは…」
怒り狂う暴君シャーリアー ル王を、シェヘラザードは美しい声の語りで宥め、たちまち物語の世界へと引きずり込んでいく…。

 

舞台の上にはうねるような海が描かれる。シェヘラザードの語る物語の世界が始まるのだ。
シャー リアール王の主題が低音弦に支えられ広がっていく海の主題が、壮大な海を表現する。

そこに管楽器によって、波をかき分け船が現れる『船の主題』が奏でられる。
シンドバッ トが現れた。

この二つの主題を中心に展開される、海の英雄シンドバットの物語。

 

王はシェヘラザードの語る物語の世界へ引き込まれていく。

 

しかし…

時は過ぎ、東の空は明けて、朝日が差し込んでくる。シェヘラザードは、それを見ると、こう言うのだった。

「明日お話しするお話しは今宵のものより、もっと心躍りましょう…。」

王は話の続きを聞きたいが故に、彼女を生かしておく事とした。
シェヘラザードはこう やって生き延びることができた。

 

その様子を表すように、最後はシャーリアール王の主題と、シェヘラザード妃の主題が絡み合い、静かに終わる のであった。

 

 

 


  第二楽章 「カレンダー王子の物語」

カレンダー(カランダール)とは諸国行脚の苦行僧の事。ヴァイオリンによるシェヘラザードの主題で幕を開け る。
ファゴットによりカレンダー王の主題を示す。この主題が、オーボエ、木管楽器群へと移っていく。
ちょっと ユーモラスなおどけた王子の描写。楽しげな表情で奏でられる。

中間部で全部の管楽器に荒々しいメロディが入ってくる。

シャーリアール王が荒々しく話に入ってきたのだ。

「それで、どうなったんだ?」
「早く話せ…。」

それでもシェヘラザードは気にせずに、楽しげな話を続けた。

様々な主題が絡み合い、最後は賑やかにこの話は終わる。

 

 

この曲は旋律の繰り返しが多く、下手をすると単調になる危険性もある。
しかし、この オーケストラは様々な表情を持ってその物語を表現するため、誰もが夢中になり、その世界から抜け出す事はできなくなる。

シェヘラザードは美しく、聡明で、賢い女性である。
豊富な知識によって、千の夜を様々 な物語で語り明かしてきたのである。
乱暴な王様を飽きさせてしまえば殺されてしまう。

だから、楽しいものでなければならない。

 


「ふふ、松田さん。楽しそうね。」
清良は呟いた。

ここでしか見れない彼の姿。
後姿からも伝わってくる。

 

「はい。」

清良はのだめの方を見た。
高揚した表情。嬉しそうな顔…。

その頬の赤味は、先程泣き明かした所為だけじゃないわよね?


夏の夜の宴は最高潮を迎える

 

 

   第三楽章 「若い王子と王女」

この曲の中で、最も有名な楽章。


冒頭のヴァイオリンは王子の主題。続いてオーボエとチェロによって王女の主題が出てく る。
流れるような滑らかで美しい弦楽器の主題は、二人の愛の語らいを表している。

ロマンティックで甘い旋律。誰もが酔いしれる「恋の物語」

 


のだめはじっと舞台の中央を見ていた。

夢のような時間…

でも、いつかは終わってしまう
夢は覚めるものなのだから…

それは分かっている
儚きものだと分かっていても、
それでも人は夢 を見るものなのだ。

あのひとの指先から流れる音楽を、
全身で受け止めて、
全身で感じ て…


今はそれだけを感じていたい。


その時、ホロリと片方の目から涙が流れた。

これは、この夢が終わってしまう事の寂しさからなのか、
それとも、今、こうして感じる ことのできた喜びなのか…

まだ、のだめにはわかりません…

 

中間部からは小太鼓のリズムに乗ってクラリネットが軽やかに舞曲風の王女の主題を奏でる。
先 程までとは違う表情。二人の恋の行方はどこへ向かうのであろうか…。

 

そして初めの主題に戻り、その後をシェヘラザードの主題が続いていく。

「明日お話しするお話しは…。」
ああ、もう朝が来てしまったのか…
王 の嘆きが聞こえてきそうだ。

木管楽器で名残惜しそうにその物語は閉じられる。

 

  第4楽章 バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲


シャーリアール王の主題から始まり、それをヴァイオリン・のソロシェヘラザードの主題 が受ける。

そして、すぐに祭りへ突入する。軽快なリズムに乗って奏でられるフルートのメロディが祭りの雰囲気を盛り立 てる。
2/8拍子、6/16拍子、3/8拍子の三拍子によって祭りの様子が鮮明に描かれる。

アラブの街の祭りが最高潮に盛り上がる時、舞台の上は荒れ狂う海のシーンへと変わっていく。
第 一楽章の海の主題が現れる。壮大なる海がそこにはある。

それが次第に激しくなり、船は飲み込まれて、やがて、壮絶な難破の場面を迎える。

その迫力に、観客は息を呑む。

 

…しかし、その波も収まり、潮が引くように静まり返る…

ヴァイオリン・ソロのシェヘラザードの主題。そして、続く低弦音のシャーリアール王の主題。
し かし、それは穏やかに変わっている。

シェヘラザードに魅せられて、シャーリアール王は激しさを失っていたのだ。
人間不信、 横暴さがシェヘラザードとの千一夜を通して、なくなっていたのである。

シェヘラザードはその間、王との間に3人の子をもうけたのであった。


最後は微笑むようなヴァイオリンのシェヘラザードの主題が現れ、消え行くように静かに この曲が閉じられていった。


一瞬、会場は静まり返った。
誰もがこの物語の世界から抜け出せな いでいた。


「ブラボー」

どこからか聞こえてきた声に、皆我を取り戻し、やがて大きな拍手と賛辞の大合唱が沸き起こった。
そ れは地をも揺らすような、勢いであった。

 

 


「…のだめちゃん?」
清良の声でのだめは我に返った。

「大丈夫?」
「あ、はい…大丈夫です。」
身体の感覚が麻痺してい る。頭もぼーっとして…。


舞台の上では、松田さんが高橋さんを前に出して拍手をしているのが見えた。
… とても遠くに感じる。


そうか、もう終わっちゃったんだ…。

まだ、信じられない。


拍手の音も大歓声も、どんどん遠のいていくように感じる。
代わり に自分の心臓の音が大きく聞こえてくる。


どうしよう、壊れそうだ…。
気がつくと、ぐっと身体を前に倒して 蹲っていた。

「のだめちゃん?」
清良さんの声。

 

 

 


しかし、まだ宴はまだ終わってなかった。
再び拍手の音が勢いを増 した。


「アンコール…。」
「え…。」
清良の声にの だめは身体を起こした。

再び現れたオーケストラの姿に、会場は盛り上がった。
舞台の上の奏者達は、少し肩の力 が抜けたような砕けた笑顔を見せていた。

そして、松田さんも、楽しげに登場してきた。

 

拍手が鳴り響き、やがて静まり返った。

タクトが上がり、滑らかに動き出した。
弦楽器の導入の後、聴こえてくるのは、オーボエ の音色…。


サン=サーンス 歌劇 「サムソンとデリラ」Op.47から 「バッカナール」


「サムソンとデリラ」は、紀元前のパレスチナが舞台で、イスラエルの英雄サムソンと異 教の姫デリラの愛憎劇として旧約聖書の中でも有名な物語である。
「バッカナール」は歌劇の第3幕で登場する人気の高い曲である。酒の 神「バッカス」を讃える祭りで、音楽にあわせて官能的な踊りが繰り広げられる。

エキゾチックなヘブライ的旋律が特徴で、一度聴くと癖になるような、不思議な魅力を持っている。


冒頭はオーボエのソロ(カデンツァ)。中東的な独特の音色が、どこか異国の地にいるよ うな気分にさせる。

「ふふ、久々の黒木くんのソロね。」
清良はかつての仲間を見て、微笑んだ。

ホルン、ピッコロ、フルート…と管楽器が祭りを盛り上げ、カスタネットやトライアングルが独特の世界の色を さらに強く彩る。
この曲は急・緩・急の形式で非常に馴染み易く、聴く者を飽きさせない。

途中、弦楽器による情緒溢れるゆったりとした旋律をはさみ、その後は最後に向けて加速し続けながら激しさを 増していく。
サムソンの怪力を封じ込め勝利に沸くペシリテ人の宴。そう、これは勝利の宴なのである。

ティンパニーなどの打楽器が激しく打ちつけ、その激しさは増すばかり。
力の限りをそこ に打ち付けていく、最後の一音まで…。

 

 

 

…やがて、指揮台の上のタクトが勢いよく振り上げられ、止まった。


R☆Sの真夏の夜の宴は、完全燃焼するように盛り上がって終わるのであった。


ブラボー

会場は割れんばかりの拍手。皆、惜しみなく、夏の夜を演出してくれた者達へ賛美を送った。

いつまでもそれは鳴り止まなかった。

 

 

 

のだめは呆然と舞台の方を見ていた。
魂が抜けたように、ただただ、その上で起こってい る事を眺めていた。


来てしまったこの時が、ずっと覚悟はしていたんだけど…。


深々と頭を下げる松田を見て、居ても立ってもいられなくなっていた。

「のだめちゃん?」
清良はのだめの様子に気がついて、声を掛ける。

「あ、あの、清良さん。のだめは…ちょっと…。」
そう言って、その場を駆け出して行っ た。

 


「大成功だったな。」
「あたりめーよ。」
舞 台の裏では、先程まで演奏していたオケのメンバーが、完走した喜びを分かち合っていた。

「それにしても…くろきん、さすがヨーロッパ仕込みだよな☆アンコールのソロ良かったぜ。」
「そ、 そう?」
峰はオーボエを抱えた黒木の肩に抱きついた。

「なんて言うの?艶かしいっていうか、色気あるって言うか…いつの間にそんな事覚えてきたかと思うと、感慨 深いよな〜。」
「なに、それ(汗)。」
「やっぱり…あれかな?」
「あれって…(嫌な予 感)。」
「あれって言ったら…。」
その時、峰の前で見慣れた姿が目に入った。

「のだめ。」
声を掛けるとのだめは振り返った。

「あ、峰くん。お疲れ様です。よかったですよ〜。シェヘラザードもアンコールも…。」
「お お、ありがとう。お前もお疲れ。」
そう言いながらも、落ち着かない様子ののだめ。

「どうした?」
「…え、あ、いえ。のだめも楽しかったです。誘ってくれてありがとうご ざいました。。」
「ああ、またやろうな。」
「はい。」
のだめは大きく息を吸って、峰に向 かって笑った。


「…打ち上げ。来るんだろう。」
「あ、はい。裏軒ですよね。行き ます。」
峰はのだめをじっと見て、それから上を見た。
そして、一息ついて再び顔を見た。

「…松田さん。この後、仕事の打ち合わせなんだって。何か用事があったら、早めに会っといた方がいいぞ。」
の だめは目を大きく開いた。
「え…。」
「Mフィルの公演近いから…。仕事に入り込んだら話せる機会もなくなるだろ うし…。」
「峰くん…。」
「沙悟浄の方は、さっき用事を済ませておいたんだよな…。」
そう 言って、視線を宙に向けた。

「まあ、お礼とか、いろいろあるだろうし…。」
峰の呟きに、のだめは笑顔を見せた。

「そですね。そうします。」
のだめは明るい顔をして、足早にその場を去った。

 

「龍ちゃん…。」
後から真澄が現れた。
「…まあ、あいつなら大丈 夫だろう。」
振り返らずに峰は言った。

真澄は呆れたようなため息を小さく付いた。

「私もそう思うけどね…。」
「真夏の夜の…夢物語なんだし…な。」
そ う言って、真澄の方を振り返った。


「夢…ね。」
「そう、夢。」
真澄はため息を もう一つ付いて、笑った。

 

 

 


楽屋の手前まで行くと、松田の話し声が聞こえてきた。

「ああ、今からそっち向かうから。…今日の出来?もちろん、大成功だよ。当たり前だろ。ははは」
ド アが開くと、携帯電話を片手に大荷物を持った松田が出てきた。

「ん、じゃあ、あとで。はい。」
ピッ。
松田は胸ポケットに電話を しまった。

 

 

「松田さん。」


その声に、松田は振り向いた。

髪を振り乱し、息を切らしたのだめの姿。
松田はふっと微笑んだ。

「ちょうど良かった、もうすぐ出るところだったから…。」
松田はのだめの方へと近づい た。

「あ…、あの…。」
のだめは少し緊張しているのか、震えていた。

「ん?」
「あ、今日はありがとうございました。」
そう言って、の だめは頭を下げた。

「こちらこそ、ありがとう。最高に楽しかったよ。素晴らしかった。俺の方こそ、お礼を言うべきだよな。」
松 田は優しく微笑んだ。

のだめはそれ以上、何も言えなくなってしまった。

…言いたいこと、たくさんあったのに、頭が真っ白になっている。
どうしよう。もうす ぐ、終わりなのに…。

自然と目が潤んできたのに驚いて、俯いた。

すると大きな手が、目の前に差し出された。
のだめは顔を上げた。

「また、一緒にやりたいね。」
優しい瞳で話しかけられた。

のだめは手を伸ばした。

「はい。お願いします…。」
そう言って、握手を交わした。

「じゃあ、また。これからも、がんばって…。」
松田は片手を上げて、のだめに微笑ん だ。

「はい。松田さんも…。」
のだめはその姿をじっと見ていた。


松田は振り返って背中を見せ、そのまま前へと歩き出した。

 

もう、終わっちゃうんだ…これで…。
のだめは次第に遠くなっていく背中を見ながら、心 が苦しくなっていくのを感じた。

これで……。

 

「松田さん。」
思いがけず大きな声が出た。

松田は振り返った。

「あ、あの…。」
目と目が合って、

「…のだめは…。」
そのまま見つめ合って、

「のだめは…松田さんの事……。」
その瞳しか見えなくて…

松田は真面目な顔で、のだめの目を見つめていた。

 

「……ったく、もう王子様の登場かよ…。」
松田は、のだめの後の方に向かって言った。

のだめは驚いて振り返った。


そこには…千秋が立っていた。


「…先輩。」
のだめは凍りついたように、そのまま固まってしまっ た。

「いいところだったのにさあ〜。もう少し夢くらい見させてくれたっていいじゃねーかよ。」
ぶ つぶつ言いながら、松田はのだめの横まで歩いてきた。

のだめは松田の顔を見上げた。
松田は優しく笑いかけた。

「のだめちゃん。いい夢見させてくれてありがとう。すげーいい気分だったよ。」
優しく 話しかけた。
のだめの頬は真っ赤に染まっていた。

そして、肩に手を乗せた。
「…え。」
松田はそのまま顔を近づけ て、のだめの頬に口付けた。

のだめはびっくりして目を真ん丸にした。
すると、ニヤリと笑った松田の顔が見えた。

「じゃあね。また会おう。」
松田は片手を上げて、スタスタとその場を去っていった。


のだめは唖然として、立ち尽くしていた。


「…行くぞ。」
千秋の声が聞こえた。

千秋の方を見ると、すでに後を向いていた。

「峰と約束したんだろう。」
「…。」

久しぶりのこの声は、少し怖くて、

…少し寂しそうに聞こえた。

「…はい。」
「行くぞ。」
そう言って、千秋は前を歩き始めた。
の だめはその後を付いて歩いた。

 


どうしよう…。
一番見られてはいけない人に、一番見られたくない 顔を見せてしまった。

どうしたら良いのか分からず、途方に暮れ、ただ泣きたいような気分だった。

 

その時、目の前に手が差し出された。


「早く…しろ。」

千秋は前を見たままで、手だけを後ろに差し出していた。

のだめはその手をそっと握った。
すると、少し早いペースで歩き出した。

その後は、二人手をつないだまま、なにもしゃべらず、ただひたすら歩いていった。

 

真夏の夜は湿気を含んだ重たい空気。
空には真ん丸の月がぽっかりと浮かんでいた。

 

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