夏 の祈り〜side Shinichi
 
 
 
夕 食後、皆がわいわいと話しているのを俺はソファに腰掛けて黙って聞いていた。
話 に積極的に参加する事はしない。
 
自 分のペースで、ワインをゆっくりと楽しむ。
 
今 日のビーチでの出来事を皆が話し出した。
去 年のサン・マロの海、そして新潟の海が嫌でも思い浮かんできて血の気が引く。
 
あ の、俺を引きずり込もうとする意思を感じる白い波、どこまでも広がる息苦しさを感じる青い海・・・。
 
だ けど。
 
の だめの水着。
 
新 潟ではジジイに買ってもらったものだったけど。
今 年は、のだめが新しいのを買いに行くのに付き合わされて・・・、俺が買ってやったもの。
 
の だめの白い肌が映える、濃紺のビキニ。
 
似 合ってたよな。
 
他 の男に見られるのは癪だが・・・やっぱり海には近寄りたくない。
秤 にかけて・・・海の恐怖には勝てなかった。
パー カーを着るようにとは言ったけど、気休め程度にしかならない事も分かっていた。
 
だ けど。
 
何 だって?!
日 焼け止めをリュカに塗ってもらっただと?
の だめのヤツ、俺以外の男に肌を触らせたって事だよな・・・?
 
気 に入らない。
 
で も自分がビーチに一緒に行けばそんな事にはならなかった訳で、行けないのは俺のせいで。
 
はぁ・・・。
の だめのヤツ・・・。
 
 
 
 
部 屋に戻って。
去 年は一滴も飲まなかったワインを数杯飲んだのだめはほろ酔い加減で。
先 にシャワーを浴びさせ、その後俺も汗を流す。
 
の だめはヒラヒラのネグリジェ(ヨーコ作)を着て、窓を開け、そこに座り込んでクッションを抱えて外を見ていた。
微 かな風が室内に入り、のだめの乾ききらない濡れた髪を靡かせ、ネグリジェの裾が舞う。
 
「何 見てる?」
 
隣 に俺も座り込むと、のだめは俺にしな垂れかかってきた。
 
「星 がたくさん見えるなと思って」
 
確 かにパリでは見られない、小さな星まではっきり見えるほどの煌めく星空。
 
「今 回もきらきら星、弾きマスよ」
 
うっ とりと星空をみあげるのだめは、酔いなのかシャワーで火照ったのか肌が薄桃色に色付いていて・・・。
自 然にその肩を引き寄せる。
 
肩 のラインをなぞりながら、その肌に、リュカが触れたという事を思い出す。
 
「日 焼け・・・」
 
の だめは俺が言わんとしている事など分からないだろう。
 
「大 丈夫デスよ。日焼け止め塗りマシタから」
「ア イツに塗ってもらったんだろ?」
 
俺 の言葉にのだめが俺を見上げる。
 
「真 一くん?もしかして・・・嫌デシタ?でもリュカは子供ですよ?」
 
そ う思っているのはコイツだけだ。
見 た目はもうのだめより大きいじゃないか。
そ れにリュカとかいうガキは・・・。
 
の だめは隣で「やきもちデスか?」なんてのんきに笑っている。
 
コ イツ、お仕置きだ。
 
「も うビーチには行くな」
「え えー?!また明日行こうと思ってたのに」
「行 かせない」
 
の だめの腕を取り、ラグの上に押し倒す。
少 し強引に唇を奪い舌を割り込ませると、のだめはイヤイヤと顔を振った。
 
そ れを無視して、耳に、首筋に唇を這わせる。
次 第に弱くなるのだめの抵抗。
 
「こ うすれば、もう行けないだろ?」
 
明 日のドレスからは見えない、だけどビキニになれば絶対に見える場所にきつく吸い付く。
 
短 く声を上げたのだめは小さく「ずるいデス」と言った。
 
ず るくても何でも。
俺 が知らないうちに、お前に他の男が触れるのは絶対に嫌だから。
 
「やっ・・・! ちょ・・・んんんっ・・・」
「何?」
「こ、 んなっ・・・とこ、ろで・・・はぁっ・・・」
「構 わないだろ」
「こ、 え・・・聞こえっ・・・ちゃい・・・マス・・・っ!」
「聞 こえない」
 
ネ グリジェの裾から手を差し込み、ふくらはぎから腿へ、外側をゆっくりと撫で上げる。
そ のまま腰まで撫で上げて背中へと手を移すと、少し汗ばんだのだめの肩甲骨の辺りをすっと何度も行き来する。
 
そ の度にのだめの身体は小刻みに跳ねて。
声 を、息を漏らさないようにギュッと目を瞑って掌で口を覆っているその姿に、嗜虐心を煽られる。
 
首 筋から鎖骨を舐めるように辿れば、ぶるりと震えて俺にしがみついてきた。
 
俺 は動きを止め、のだめの顔を覗き込む。
 
「も う、おしまい」
 
の だめは潤んだ瞳で、濡れた唇で、頬を染めて、無言のまま俺を見つめるけど、俺はそれに応えてやらない。
 
「・・・ いじわる・・・」
「・・・・・・」
「・・・ 止めないで?」
 
可 愛いお願いには、応えてやろう。
 
コ イツは俺のもの。
 
コ イツにも、アイツにも、分からせておかないと、な。
 
 
 
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オマケ
 
 
――― リサイタル後。
 
 
「の だめ!すごく素敵だったよ!」
「リュ カ!ありがとデス!」
「そ のドレスもとっても似合ってるね」
「そ デスか?照れマスね。これ、ヨーコが作ってくれたんデス」
「ヨー コ?」
「の だめのお母さんデス」
「へ え」
 
ち らりと俺を見るリュカ。
 
「こ の後さ、またビーチに行く約束だったよね」
「あー、 ごめんなサイ。のだめ行けなくなりマシタ」
 
の だめが俺を見る。
当 然だ。
 
「え えー。約束したのに」
「ご めんなさいデス。他だったらいいですよ?」
「そ れじゃ・・・グラン・ベ島に行かない?僕まだ行ってないんだ」
 
何 だと?
の だめは俺をまた見るが。
俺 は行くな、とも俺も行く、とも言えなくて。
少 し考えた後、のだめの出した結論は。
 
「い いデスよ」
「じゃ、 早く行こうよ」
「ハ イ!のだめ着替えてきますね」
「う ん、待ってる」
 
の だめはどうせ先輩は行けないんでしょ、と言わんばかりの目線で俺を見て。
リュ カは俺を見てふふんと笑った。
 
こ いつ、しぶとい。
 


 
End