「ふぅぅ……やっぱりジェットコース
ター5回連続は疲れますネ」
のだめはフラフラしながら園内を歩いていた。
結局、高橋との勝
負は5対戦5引き分けで、これ以上続行すると死人が出る…とのお互いの見解が
一致したため、ひとまず勝負は保留になった。
「な
んだか、脳みそがかなりシェイクされた感じがしマス……あれ?」
のだめはふと、目の前を同じようにフラフラと千
鳥足で歩いている人物に気がついた。
「峰くん?」
峰は今にも真っ青な
死にそうな顔をしてなにかをぶつぶつと呟いていた。
「いや……別に、オレが怖がりな訳じゃないんだ……。あいつ
らが異常なんだ!。
くそ……清良の奴……オレのこの『お化け屋敷に入って清良を怖がらせてオレに抱きつかせていちゃいちゃしよう!』
っ
ていう壮大なプロジェクトをだいなしにしやがって……(けっこうせこい)。
『お腹すいたね〜』ってあんなおどろおどろしい雰囲気の中
であんパンとか食べてるんじゃねえよ!。
クロキンもクロキンだ……『この蝋人形、肌の質感とかも良く出来てるよね』って……何、冷静
に観察してるんだよ!
それにしても……最後のあれ……ぐわあああっ!!思い出したくもないっっ!!」
「み……峰
くん?」
「おぉ〜〜のだめか。元気でやってるか〜〜い」
「峰くん……なんだか声がやけになってますヨ?」
「い
や、そんなことはない。そんなことはないぞ!!」
峰はぶるぶると頭を振って気を取り直すと、よしっと気合いを入
れた。
「のだめは何かアトラクションに乗ったのか?」
「ハイ。高橋くんと『ジュピター』に
乗りましたヨ」
「……高橋くんと?そりゃあまた、変わった組み合わせだなあ……」
「とても楽しかったデス!。と
ころで、先輩探しているんですけど、知りませんか?」
「千秋?いや、見ないなあ。それよりも清良どこに行ったんだ?」
お
互いに目的とする人物は違うのだが、とりあえず共に行動することになった。
しばらく行くと、目の前には射的や輪投げなど、お祭りの屋
台でもありそうな遊具がおいてあるゲームギャラリー
カーニバルプラザにたどり着いた。
「お
おっ、のだめ!。UFOキャッチャーがあるぞっ!!」
「峰くん!。あそこにマングースのぬいぐるみがありマス!とってくだサイ!!」
「よっ
しゃー!!まかしとけ!」
別に九州くんだりまでやってきてUFOキャッチャーそしなくてもいいのではないかと思
うのだが、そういう考えは
この二人の頭の中にはみじんも浮かばなかったらしい。
峰がチャリンと音をさせて100
円を機械に入れる。
ウィーンとクレーンが動き出してアームが動き出す。
「……あともう
ちょっと……もうちょっと」
「ああっっ!!惜しい!!」
「峰くん!もう一回デス!!」
「あ
たぼうよ!!」
二人でわいわい言いながら、次から次へと持っている100円玉を投入する。
「の
だめ」
不意に、峰が名前を呼んだ。
その視線はUFOキャッチャーのガラスケージに注がれた
ままだ。
「俺たちって、すごく気が合うよな」
「ハイ。峰くんはのだめのマブだちデス」
「な
んで、俺たちつき合わなかったんだろうなー」
「そうすると、のだめが裏軒の女主人デスか……。中華食べ放題ですネ!」
「げーっ、
やめてくれ!。店が潰れる!!」
そして二人でハハハと笑い合った。
ガラスの中のマングース
をアームが何度も掴もうとにするものの、つるりと滑り落ちてしまう。
峰が真顔になった。
「コ
ンセルヴァトワールの試験……受かって……本当に、良かったな」
「……ハイ」
「向こうへ行っても、しっかりやれ
よ。ーまあ、お前のことだからどこへ行ってもたくましく生きてゆけそうだけどな」
「峰くんも……R☆Sオケしっかりと守ってくだサイ
ね」
「生水とか飲むんじゃねえぞ。道に落ちている飴とか拾ってそのまま食うんじゃねえぞ。ちゃんと泥は落とせよ」
「……
泥を落としたら食べてもいいんデスか?……でも……しばらく裏軒の麻婆丼食べれなくなっちゃいマス……」
「食べたくなったらいつでも
言え。航空便で配達してやる」
「やデス。麻婆丼は、熱いうちがおいしいんデス」
その後はお
互いに無言になった。
どちらからともなく、顔を見合わせるとそのまま、感極まってがしっと抱き合う二人。
「わーー
ん!!寂しいぞーーっっ!のだめーーっっ!!」
「のだめもデスーー!!。向こうへ行っても峰くんみたいに気の合う友達見つからないか
もしれないデスーー!!」
「言ってくれるな、ソウルメイトよー!!」
「はう……こんなとこ、清良さんに見つかっ
たら、のだめ殺されちゃいマス……」
「オレも千秋に見つかったらぶん殴られる……」
「は?なんで先輩?」
「お
前って……本当になんにもわかってないんだな……。まあいいや、わーーん、元気でやれよーー!!」
「ハイーー!!」
そ
のまま、公衆の面前ということも忘れて抱き合ったままわんわん泣き続ける二人だった。
早
く……早く、この場を立ち去らなければ……。
このままでは殺される……。
そう思った千秋
は、萌と薫が水を取りに行った隙に、こっそりその場を立ち去った。
しばらく歩いたら、人気のない場所に空いているベンチが見つかった
ので、千秋はこれ幸いと腰を下ろす。
ぐたっと体をもたれさせて顎を上げて目をつぶる。
……
疲れた……。
もう、このまま眠りにつきたい……。
ところがどうやらそうもいかないようだっ
た。
「千秋様、発見ー!!」
「あ、千秋くん」
「こんなところで何して
るの?」
騒がしい声にうんざりしながらも、千秋が目を開けると……そこには、真澄、清良、舞子の3人がいた。
ど
うしてこうも一人になれないんだ……。
(それは遊園地という場所がらしかたがないことだと思う…笑)
「ー
お前ら、ずっと一緒にいたのか?」
「いいえ、すぐそこでばったり会ったんですよ、千秋様」
「龍の奴ったら……お
化け屋敷を出たとたん、フラフラとどっかに行っちゃって……もう!」
「菊池くんなんか美人のお姉さんを見つけてそっちについてっ
ちゃったのよ〜」
「の……」
のだめは…?と言いかけて、千秋は途中で止める。
そ
れを察したのか、真澄がぶすっとしたまま答えた。
「のだめはどこに行ったか知りませんよ!。千秋様を探して迷子
になってるんじゃないですか?」
「ー別に……関係ないし……」
「はいはい」
清
良はしょうがないなあというように軽くため息をつくと、にっこり笑った。
「せっかく、このメンバーがそろったん
だから、何か乗り物に乗らない?」
「あ、賛成賛成〜!!」
「いや……俺は……」
先
ほどの恐怖を思い出して、さっと顔色を変える千秋。
すると真澄が目をキラキラさせながら、一つのアトラクションを指さした。
「ー
あれ!!。あれに乗りましょう、千秋様!!」
真澄が指を差した先にあったものは……遊園地において子供達に大人
気!なメリーゴーランドだった。
「え〜メリーゴーランド〜」
「なんだかつまんなくない?」
そ
れに対する女性陣の反応は今一つのようだ。
真澄は、両手を合わせて拝むように二人に頼み込む。
「お
願い!二人とも……白馬に乗った王子様のような千秋様を、最後にこの目に焼き付けておきたいの!!」
王子様だ?
冗談じゃねえ!そんな恥ずかしい真似出来るかーーっ!!
そう怒鳴ろうとした千秋だったが。
「子
供じゃないんだしねえ……ジェットコースター系の方が良くない?」
「ほら、後ろに見えてるからそっちに行こうよ」
「い、
い、い、いいんじゃないか?メリーゴーランド……そ、そ、そ、それに乗るぞ!」
急に立ち上がり、スタスタとメ
リーゴーランドに向かって歩き出した千秋の後ろ姿を3人はぽかんと見送った。
「あ
れ?菊池くん」
峰と清良と別れて一人でぶらぶらとしていた黒木は、向こうから歩いてくる知った顔を見て声をかけ
た。
「ああ、黒木くん。一人?」
「うん。さっきまで峰くんと清良と一緒にいたんだけど……
ちょっとお邪魔かなあって思って」
「ハハハ。その気遣いが黒木くんらしいなあ」
「菊池くんは?」
「うー
ん。今回は不発に終わっちゃって……」
………何が?
と黒木が聞こうと
したその時。
「あ、あれは高橋くんと鈴木姉妹じゃない?」
菊池が指さ
した方向を見ると、高橋と鈴木薫、萌が「千秋くん〜」「千秋様〜」「どこ〜」と言いながら歩いていた。
「あ、二
人とも、千秋くんを見なかった?」
「千秋様……あんなに具合が悪そうなのにどこに行ってしまわれたのかしら……」
「ちょっ
と目を離した隙に……」
「いや、見てないけど」
「恵ちゃんと一緒なんじゃない?」
そ
の言葉を聞くなり、高橋はむっかーっと頭に血が上ったようだ。
「くそーーっ!!あの女!。さっきはあれくらいで
勘弁してやったけど、次にあったらただじゃおかないぞ!!
目にものを見せてやる!!」
「た……高橋くん?」
「ま
あまあ。ぶらぶらしてたらそのうちに見つかるよ。そんなに広い遊園地でもないんだし」
「そうね……あ!!」
萌
が突然、声を上げる。
その視線の先にはポツンと園内に建っている可愛らしい建物があった。
全面ガラス張りになっ
ており、中では小さい女の子達がおもちゃを使って遊んでいた。
ここはおもちゃ王国のパピリオンの一つで、女の子用のおしゃれドレッ
サー・レジスター・キッチン・掃除機などままごとグッズがそろっていた。
「キャー、かわいいーっ!薫、ここに
入ってみましょうよ」
「いいわいいわーーっ!」
きゃあきゃあと黄色い声を上げながら建物の
中に入っていく二人。
「ふんっ……。女っていつまでたっても子供なんだから」
「でも、萌
ちゃんと薫ちゃんが行くんならボクも行こうかな」
「……菊池くん……本気?」
そ
して数分後……。
「やっぱり浮気したのね!!」
菊池に詰め寄る薫。
「違
うよ。ただの誤解だよ」
「とぼけても無駄よ!!。あなたのYシャツに口紅が付いていたわ!!」
「ーだから、それ
は満員電車で近くにいた女性が寄りかかって……」
「嘘!!あなた、自転車通勤じゃない……やっぱり……浮気なのね……殺してや
る!!」
おもちゃの包丁を持って菊池に詰め寄る薫。
そして萌は、おもちゃのプレートに、ま
まごとのチキンライスとハンバーグとエビフライを載せて高橋にそっと差し出していた。
「どうぞ。御飯ですよ」
そ
れをぱしっと払いのける高橋。
「こんなまずいメシが食べれる訳ないでしょう!?」
「ひ……
ひどいわ、お義母さん……」
「老い先短い老人に毒を盛って殺すつもり?」
「そんな……私、そんなつもり
じゃ……」
「泰則!!あんたもこの馬鹿嫁になんか言っておやり!!」
「泰則さん!!あなただけは……私の味方で
すよね?」
「あ……あの……」
黒木は赤くなって俯いていた。
「な
んだか……僕たち……周囲から注目されてるみたいだけど……」
隣で遊んでいた小さい女の子が、黒木達を指さしな
がら母親に言った。
「ねえ、あのお兄ちゃん達、大きいのにままごと遊びしてるよ」
「しっ……
目を合わせるんじゃありません!!」
「こ
れって……かなりの年代物だよねえ……」
舞子が言うのも無理はない。メリーゴーランドの木馬はどれもが塗料が剥
げかけていてお世辞にも綺麗だとはいえない。
それでも何人かの親子連れが楽しそうに乗る馬を選んでいた。
「そ
れに……馬車とかもないんだ」
「馬ばっかりだもんね」
「でも、このレトロな感じが、かえって味わいがあって私は
好きよ。ーさあ!千秋様!!どの馬がいいですか?」
千秋はため息をついた。
どうせここまで
来たのならば逃げられない……せめて外側から見えないような中の方へ……。
そう考えて、一番内側の高い木馬にひらりと乗った。
「きゃーーーーっっ!!
千秋さまーーーー!!かっこいいーーーっっ!!私のアンソニーーーー(?)!!」
「ぷっ」
「千秋くんが……木馬
に乗ってる……」
口に手を当てて吹き出しかける清良と舞子。
千秋は恥ずかしさでたまらなく
なりこの場から走って逃げ出したくなった。
「ちょっと真澄ちゃん、カメラカメラ」
「証拠写
真とっておかないとね!」
「もちろんその辺にぬかりはないわ!!。千秋様!。こちらを向いてポーズをとってくださーい!!」
「ー
やめんかっっ!!」
この古びたメリーゴーランドにぴったりのこれまた
レトロな曲が流れると同時にゆっくりと動き出した。
それぞれの木馬は交互に上下に揺れながら、円盤の上を回り始める。
「……
たまにはいいかもね、こんなのも」
「うん、なんだか懐かしい感じですごく楽しい」
思わず笑
顔になる清良と舞子。
千秋はそれどころではなく……このくらいの振動なら……なんとか耐えられる……と思い、必死に耐えていた。
そ
れを見て、舞子がくすっと笑う。
「やっぱり千秋くんって『白馬の王子様』のイメージだよね」
「………
うるさい」
「『鬼の指揮者』じゃなかったっけ?」
「違うわ!『この世で一番美しい芸術作品』よ!!」
……
お前らの俺に対するイメージって……いったい……。
「千秋くんと清良って似てるよね、真澄ちゃん」
「う
〜ん、まあ、似てないこともないかしら。二人とも完璧主義者だし」
「は?何それ」
「R☆Sオケが始まった当初は
この二人、つき合うのかな〜とか思ってたのよね」
「……へ?」
「ちょ、ちょっと……何を言ってるのよ舞子!」
「だっ
て、音楽に異常なほどの情熱を注いでいることとか……ふたりともルックスがいいのにそれに気を留めてないとことか……
共通点が多かっ
たでしょう。あ、この二人はそういう関係になるのかなあ……って思ってたのに。
清良は何故か峰くんとラブラブになっちゃうし、千秋く
んは千秋くんでいつのまにかあんな可愛い彼女作ってるし……」
「おい。彼女って誰のことだ」
「そうよーーっ!!
あんなひょっとこ娘は千秋様の彼女じゃないんだからねーーっ!!誤解しないでよ、舞子ーーっ!!」
必死の形相で
詰め寄る真澄を舞子はケラケラと笑った。
それを聞いた清良も木馬にまたがったまま、顎に手をあててうーんと考え込むしぐさをする。
「確
かに……。本来なら千秋くんは私の好みなのよね……」
「は?」
すごく意外そうな表情になる
千秋。
「長野のニナ・ルッツ音楽祭の練習で、初めて千秋くんがシュトレーゼマンの代わりに指揮をした時……
背
中がぞくっとした。千秋くんの指揮はすごく刺激的で魅力があって……絶対にこの人とまたオーケストラをしたいと思った。
思えばあの時
に、私は千秋くんに一目惚れしたのよね」
「きゃー!!爆弾発言っ!!」
「この場に龍ちゃんがいなくて良かっ
た……」
「俺も……あの時のことはすごく覚えてる。清良が好きだったし」
「えっ」
思
わず顔を赤らめる清良に、はっと気づいたように千秋は手をぶんぶんと振った。
「いや、音がって意味だ!。ヴァイ
オリンが!!」
「あーびっくりした」
「心臓が止まるかと思いましたわ、千秋様」
「とにか
く……清良の人望と行動力には本当に感謝している。清良がいなければ、R☆Sオケはなかったと思うから……」
そ
して行き詰まりを感じていた俺が日本でオーケストラの指揮をするという新しい夢も。
千秋は胸の中で呟いた。
の
だめとは違った意味で、清良は千秋の人生を変えてくれた人間だった。
彼女との出会いはそのままR☆Sオーケストラとの出会いでもあ
り、それによって何事にも代え難い経験を積むことが出来た。
「本当に……感謝してる……」
メ
リーゴーランドがゆっくりと止まった。
まだ顔を赤らめたまま、木馬から下りながら清良が言った。
「や
あね。照れちゃうじゃない」
「で
も、千秋くんと清良、お互いに好意を持ってるし才能を認め合ってた訳でしょ。なんでそれが恋愛に発展しなかったのかなー」
4
人で並んで歩きながら、舞子が言った。
「舞子、いいかげんにその話題から離れなさいよ」
「い
いじゃない。すっごく興味があるんだもん。はい、千秋くん、その辺はどうなんですか?」
舞子が手をマイクのよう
にして、千秋に突き出した。
千秋は突然のことに戸惑いを隠せない。
「え……いや……別に」
「や
だなあ、もう、はっきりしないなあ」
「舞子、千秋様困ってるじゃない」
「そうよ。千秋くんにはのだめちゃんとい
うあんな可愛い彼女がいるんだから」
「キーーーッ!!その勘違いだけは許せないわ!!」
目
を吊り上げて怒る真澄。
「そうね。結局、清良は峰くんを選んだ訳だしね」
「もう……勘弁し
てよ」
「峰くんのどこが良かったの?ーあ、いや、峰くんがどうって訳じゃないんだけど……千秋くんよりも峰くんを選んだってのが
な
んか不思議で……」
なんだかんだで峰に対して結構失礼なことを言っている舞子であった。
清
良はふうっとため息をついて、しばらく考え込んだ。
「どこ……って言われてもよくわからないんだけど……。龍っ
て、私のこと……すごく良くわかってくれてるの……。
他の人が絶対に気づかないようなことも、龍だけはわかってくれるの。
そ
れでいて……全てを包んでくれる……今までに会ったことがないような人だったから……」
清良は幸せそうに笑っ
た。
「それに、私だけを見てくれるしね」
「やだあ〜。のろけ?」
「だっ
て聞いたのは舞子でしょう」
舞子から肘でつつかれながら、照れたように笑う清良。
その時、
ふと前を見ていた真澄が何かに気づいた。
「あれ……?ちょっと、龍ちゃんとのだめじゃない?」
「え?」
ゲー
ムセンターの前にいるのは……確かに峰とのだめだった。
峰はしっかりとのだめを抱きしめていて、のだめの両腕も峰の背中にまわってい
た。
二人とも目に涙を浮かべていて……なんだかただならぬ雰囲気のように見える。
「あ、先
輩」
こちらを向いていたのだめが金縛りにあったようにその場を動けない4人に気づいた。
そ
の声に峰も振り向く。
「おう、清良、こんなところにいたのか」
何事も
なかったかのようにのだめから離れ、清良の方に近づいていく峰。
清良はうつむいたままその表情が見えない。
「ん?
清良、どうした?」
峰が清良の肩に手を置こうとした瞬間……。
ばっし
いいいいいいいんっ!!。
清良が峰の頬に平手打ちをくらわせた。
あまりの勢いに吹っ飛ぶ
峰。
「な、な、何するんだよ!清良!!」
「ー知らない!!龍の馬鹿!!」
清
良はそのままくるりと踵をかえすとたった今来た道を引き返していく。
峰はぽかんとした表情でそれを見ているだけだった。
「ど
うしたんだ……あいつ」
「あーーー!!先輩!!やっと見つけました!!」
のだめが千秋を見
つけすぐに飛びつこうとするが、そのまま地面にはたき落とされる。
「せ……先輩?」
千
秋も無言のままのだめに背を向けて去っていく。
一部始終を見ていた真澄と舞子は、はあああっと深くため息をついた。
「峰
くんとのだめちゃんって……」
「……本当に救いようのない馬鹿達よね……」
続
く。