……ここは……どこだ……。

千秋 が目を覚ますと、薄汚れたクリーム色の天井が見えた。
頭がぼんやりしてずっしりと重い。
……それに……なんだか 不安定な嫌な感じがする。
この感じはいったい何なんだ。

………のだめ。

ふ と千秋はその名前が頭に浮かんだ。
そういえば今日はのだめがパリのコンセルヴァトワールの試験の日程を終えて、
千 秋の母親の征子とともに帰国する日だった。

あいつ……試験はどうだったんだろうか。

二 月にあちらに渡欧してから千秋になんの連絡もない。
時折、征子が寄越す電話でのだめはとりあえず元気にやっているらしいということを 知るくらいだった。
別にのだめとは恋人同士でもなんでもないから、それ以上のことはなんとなく千秋の方からは深く突っ込んで聞けな い。
そんな千秋の微妙な気持ちを知ってか知らずしてか、征子も必要以上に語ることはなかった。
試験…どうだった のだろう。
もう結果は出ている筈だ。

……のだめに早く会いたい。

会っ て結果を聞きたい。

ーだけど今日はどうしてもはずせない用事があって、のだめの帰りを待っている訳にはいかな かったのだ。
千秋は後ろ髪を引かれながら三善の家を出て某市民文化センターへ向かった。
新星R☆Sオーケストラ のメンバーと、新しい指揮者である松田幸久との初顔合わせの日だった。
松田はコンマスの高橋とさっそく意気投合したようで、固い握手 を交わしあっていた。
……少々、高橋の松田を見る熱に浮かされたような熱い視線が気にはなったが……。
まあ、い い。
俺には関係ない。
それからお決まりのコースで親睦会と称し、夜の街へ飲みに出掛ける。
2, 3軒ハシゴしたところで意識が途絶えて…。

何故だろう。
腕が重い。
妙 に痺れていて痛いくらいだ。
その原因を確かめようとして、千秋は寝たまま顔だけを横に向ける。

…… するとそこには巨大な鳥の巣のようなモジャモジャ頭があった。

千秋の右腕を枕にして、真澄が天使のような寝顔で スヤスヤと寝ていた。
口をパクパクとさせたまま一言も発することが出来ない千秋は、とにかくこの悪夢のような現実から逃れようと頭を くるりと反対側に向けた。

……そして親指をおしゃぶりのようにくわえたまま、千秋に寄り添うように寝ている高橋 の顔とぶつかりそうになる。

「ヒイィーっ!!」

千秋は思わず悲鳴をあ げると二人を振り落とすようにして跳び起きた。
両腕にしばらく血が通ってなかったのだろう、ズキズキして痛む。
ずっ と大の男の重たい頭が二つ乗っていたのだから当たり前だ。

……のだめの頭ならそんなことはないのに……

っ て。

千秋はふと頭に浮かんだ考えに眉を寄せる。

ー俺、あいつに腕枕な んかしてやったことがあったか…?。
(注:酔っぱらっていつもしてあげていますが、本人まるで記憶無し)

い きなり枕が頭から取り払われたことで、真澄と高橋が目をこすりながら起きてきた。

「なに〜。もう、着いたの〜」
「あ、 千秋君!。千秋君おはよう!!」

二人は顔を青くしている千秋に飛びついた。

「千 秋様の寝顔…もう、本当にか・わ・い・い・んだから〜」

寝顔って…俺はこんな危険な奴らの前で無防備に寝てし まっていたのか。

「千秋くん…。昨日、僕たちは愛を語り合い一つになったんだよ…覚えてない?」

…… まるで……覚えてない……。

あらぬ想像に行き着き、頭がパニックを起こし硬直状態におちていた千秋に声をかける ものがあった。

「あれ?千秋くん、起きたの」
「お〜千秋、よく寝てたな〜!」
「千 秋くんおはよう」

…見るとすぐそばで黒木と峰と菊池が缶ビールを片手に柿ピーをつまみながら、トランプをしてい た。
広い室内だった。
がらんとした古そうな開けた部屋には、これまた薄汚れたカーペットが敷いてあって、何人か の人間が毛布にくるまって寝ていた。
今が何時だかわからないが、こんなにこうこうと明かりが着いていたら寝れるもんも寝れないだろ う…って今まで千秋は寝ていた訳だが。
すぐ傍らでがーがー鼾をたてて寝ている人物には見覚えがあった。

「… 大河内?」
「ああ、大河内の奴、乗ったらすぐに寝ちゃったんだよな〜。いつも夜は9時に寝る規則正しい生活をしているからなんだっ て。
お前は小学生かっつうの!」

と峰が言う。

ー 乗った?

「いや〜でも、鼾がうるさいよね、こいつ」
「ははは。僕たちなかなか眠れないよ ね」

笑い合う菊池と黒木。
缶ビールは3人でかなり飲んだのか、空き缶がいくつも傍らに転 がっている。

「ちょっと!千秋様から離れなさいよ!」
「うるさい!お前こそどっか行 け!!」

真澄と高橋はお互いが千秋にへばりついたまま、相手をはねのけようと二人で争っていた。

「い やあ〜真澄ちゃんと高橋は千秋の隣で寝るって聞かなくってさあ。
うるさいからそのままほっといたんだけど…千秋、寝てる間に二人から 何かされなかったか?」
「大丈夫です!。千秋様!。真澄がこの変態から貴方のことをお守り申し上げていました!」
「何 が変態だ!。お前こそ、皆に隠れて千秋くんの唇にこっそりキスしようと顔を寄せていってたくせに…。
ーボクが見ていなかったらどんな ことになっていたか!」

……俺は……もしかして、貞操の危機だったのか。

「い やあ、きっと二人で牽制しあったまま寝ちゃったんだよ。仲良きことは美しきだな!はっはっは」

そこでそうまとめ るか、峰。

「峰……」

聞きたいことはたくさんある。
こ こはどこなのか?
何故、お前らと一つの部屋で雑魚寝してるんだ?。
ちなみに今はいったいいつなんだ?。
ー のだめ……のだめの試験はどうなったんだ!。

頭が混乱していて何から質問したらいいかがわからない。
そ んな千秋をよそに、峰は天井を見上げる。

「あ〜そろそろ、山口県のあたりを通過している頃だよな〜」


……… は?………。


「別府に着くのはあと何時間後だったっけ?」
「僕たち、 すこし仮眠をとっていた方が良くない?」
「おい…いったいなんの話をしているんだ…」

千秋 は嫌な予感がして、おそるおそる声をかける。

「あれ?お前、酔っぱらっててもしかして全然記憶ないのか?」
「………」
「昨 日、親睦会の最中に大河内が、ボクの実家は九州の別府で温泉旅館をやっているから皆で泊まりに来てもいいよ〜。
タダで泊まらせるよ 〜っていうもんだからさ。
皆、酔っぱらってたからそれなら卒業旅行も兼ねて皆で行こうぜ〜って話になったんだよ。
ー 本当に覚えてないのか?」
「………」
「そんで一回帰って今日の昼くらいに皆で集合したんだけど…ああ、千秋はオ レん家(裏軒)でさらに出来上がってたもんな〜。
荷物とか取りに帰らなくて大丈夫か?ってオレ聞いたんだけど、そんなのいい、いいと か言って…覚えてない?」
「………何も」
「最初は東京ー博多を新幹線で行く予定だったんだけど、大河内がフェ リーに乗りたいってごねてさあ。
急遽、大阪で下りて別府行きのフェリーに乗ったんだよ」
「こいつ船オタクらしい よ。…ほら、今は鉄道オタクとかがはやってるじゃない。
まあ、ボクも新幹線とかだったらこのもじゃもじゃ頭と席の取り合いになって (千秋くんの隣を)無駄な労力を費やすからね。
船の旅、なかなかいいよ。この一番安い2等寝台っていうのが味があっていいじゃない。
閉 ざされた空間に男同士で雑魚寝…ハァハァ(もちろんボクは千秋くんの横で)」
「ちょっと…ちょっと待て」

千 秋はしゃべり続ける高橋を手をあげて制する。
ズキズキと二日酔いで痛む頭を押さえながら、混乱した頭の中を整理する。

ー ようするに…親睦会の日から一日たっているのか…。
くそ…酔っぱらったオレを皆でよってたかって無理矢理こんなところまで連れて来や がって…。
九州の温泉だって?。
そんなとこまでつき合う筋合いはねーぞ!。
オレは帰る!。

…… あれ……。

今、何か、気になる単語を言われたような……。

「おい、 峰」
「なんだ?」
「……その……オレ達は今いったいどこにいるんだ?」
「いや、だから山口 の辺り」
「ーそうじゃなくて…ここはどこだ」

なんだそんなこともわかってなかったのかと峰 は呆れたような表情になる。

「ここは関西汽船…フェリーの中だよ。俺たちは今、瀬戸内海を航海中なんだぜ」
「あ れ?」
「千秋くん、どうしたの?」
「キャーッ!!千秋様が泡を吹いて倒れていらっしゃるわーっっ!!」





「お お〜!とんこつラーメン!!」

船から下りるなり、峰は別府観光港の待合室の立ち食いコーナーののれんを見て叫ん だ。

「食っていこうぜ〜!九州初上陸記念に!」
「……別にこんなところで食べなくっても、 後でガイドブック見ながらおいしいところで食べた方がいいんじゃない?」

黒木はあくまでも慎重派だ。ガイドブッ クのページをペラペラめくっている。

「何、言ってるんだよ〜、くろきん!。旅はインスピレーションだぜ!ビビ ビッと来た時に行動しないと!」
「君は旅の間中、インスピレーション爆発させていそうだしなあ。まあ、すこし落ち着いてよ」

菊 池がはははと笑いながら言う。

「それに、おいしいところなら大河内くんが地元だから知ってるよ。ねえ、大河内く ん」
「ーあ、え……ああ、もちろんだよ」

急に話をふられた大河内はびくっとしながらも、気 を取り直して偉そうにふんぞり返った。

「まあ、別府ではボクはちょっとした『顔』で有名人だからね。
飲 み屋街なんかではボクの帰りをママ達が心待ちにして待ってるんだよ。『きゃ〜、まもちゃ〜ん』とか言ってさ。
ツケだっていくらでも効 くしね」
「ふーん、じゃあ今日の飲み会は大河内のおごりね」
「えっ!いや…それはちょっと…」

慌 てる大河内をよそに、真澄と高橋が顔を真っ青にしたまま意識を失っている千秋をずるずると引きずってきた。

「ど うしよう〜龍ちゃん!。千秋様、さっきからピクリともしないの!」
「酒が残ってるだけじゃないか?」
「ああ、こ ういう時は王子様のキスがあれば目が覚めるもんだよね」

菊池がまた無責任なことを言う。

「そ うか…!!じゃあ、……私が」

んんーっと唇を寄せる真澄の顔を掌で潰すようにして押しのけながら、高橋が千秋に またがった。

「王子様キャラといえばボクでしょう!(?)いっただきま〜す!」

真 澄がモジャモジャ頭を武器にして高橋に超高速タックル!。
ぶっ飛ぶ高橋。

「いってえ!!ー 何、するんだ!このタワシ頭」
「うるさいわね!あんたが千秋様に近寄ろうなんて100万年早いのよ!」

ギャー ギャーと頭の上もみ合う二人の声がうるさかったのか、千秋がううっ…と顔をしかめる。

「……のだめ」

呟 いた言葉に菊池が反応して耳をそばだてる。

「千秋くん、今、何か言わなかった?。ノ…ダメとかなんとか」
「あー」
「え 〜と」

思わず顔を赤らめる黒木とどうしよっかな〜と後ろ頭をぽりぽりと掻く峰。
千秋の指が ピクリと動き、やがてズキズキ痛む頭を押さえながら本日2度目の覚醒をした。

「うっ…ここは…どこだ」
「お す!千秋」

にこにこしながら顔をのぞき込む峰をぼんやりと見ながら、だんだんと千秋の目の焦点が合ってくる。
そ してさーっと血の気が引くと

「ヒイィィィーッ!!」

と飛び退いた。

「こ こは……ここは……どこだ!!」
「別府港に着いたけど…千秋くん、どうしたの?すごく顔色が悪いよ…」

心 配そうに千秋を気遣う黒木。
多分、このメンバーの中で他人の体調まで気をつかえるのは彼しかいないだろう。

「そ、 そうか…今は陸地なんだな……」

ほっとしたように大きなため息をつく千秋。

「やっ ぱり具合が悪そうだね、千秋くん。ここから大分空港まで行って飛行機でトンボ帰りしたら…」
「飛行機っ!ヒイィィィーッ!!」
「… なんだか、良くわかんねえけどせっかくここまで来たんだからさ〜。
じっと車にのってれば大丈夫だって!すぐに具合も良くなるさ」

あ くまでも峰は親友である千秋と一緒に卒業旅行がしたいらしい。

「ー俺はこんなところに来ているほどヒマじゃない んだ。三善の家に帰らないと…」
「あれ?そういえば、昨日はのだめが試験を終えてパリから帰ってくる日じゃなかったですか?千秋様」
「え? 恵ちゃんが?」

思いついたように言う真澄とその代名詞に反応する黒木に、千秋はうっと言葉につまる。

「ノ ダメ…メグミ?」

菊池は聞いたことがないような名前に思わず首をかしげる。

「千 秋くんの彼女だよ。野田恵ちゃん…っていって、愛称はのだめ」
「ちょ…っ。黒木くん!!」

黒 木の爆弾発言に、周りは一気に騒がしくなる。

「なんだ、千秋くんストイックそうだから彼女いないのかと思って た。ハハハ」
「ちょっと待って!菊池くん!それは大いなる誤解よっ!ーあんなひょっとこ娘が千秋様の彼女な訳ないじゃない!!」
「ヒ イィィ!!千秋くんに彼女!そんな話、聞いてないよ!!本当なの、黒木くん!」
「え…えーと」
「なんだ…千秋、 彼女いたのか。ボクにももちろんいるけどね!(もちろん嘘。大河内的にすごく悔しいらしい)」
「ちょっと待て…お前ら」

千 秋がこめかみに青筋をたてながらピクピクと震える。

「………言っておくが、のだめは俺の彼女じゃねえ!。ついで に言うと俺は温泉なんか嫌いだ!!。
(船と飛行機はもっと嫌いだ!)。人を勝手にずるずるひきまわすんじゃねえっ!!
俺 は今すぐ新幹線で帰る!」
「大分は新幹線通ってないよ」
「…黒木くん、ナイスつっこみ…」
「………」

憮 然とした表情になる千秋に、峰がすごく言いづらそうに言う。

「あのなあ…千秋…」
「なん だっ!!」

キッと般若のように睨み付ける千秋に、峰は多少たじろいだ。

「い や……お前がどこにいるんだって電話がかかってきたもんだから…別府に行くって言っちゃったんだよな」
「はあ?」
「そ の……だから……あいつも来るってさ」
「言ってることがさっぱりわからん」

なんとなく要領 をえないような峰の話し方に、千秋はいらいらして、また声を荒げようとした時ー。

「龍!!」

待 合室の入り口の方から女性の声がして、そこにいた男性陣は皆、振り返った。
そこにいたのは三木清良だった。
大き な旅行ようのスーツケースを抱えて、清良にしては珍しく清楚な白いワンピースとそれに合わせたつばの広い帽子をかぶっている。
清良は まっすぐに峰の方へ向かって歩いてきた。

「清良!俺の真っ赤なルビー!!再会できて嬉しいぜ〜!」

大 きく手を広げて清良を受け止めようとする峰を、清良は出会い頭に拳骨をくらわせた。
ガツン!。

「いっ てえ〜〜!何、すんだよ」
「それはこっちの台詞よ!。なんだって大阪でフェリーに乗り換えたりするのよ!。
そん なこと急に言われても飛行機がキャンセルできないし、結局皆こっちに来て一晩ホテルに泊まったのよ!」
「ああ〜それにはいろいろと訳 が」
「どうしてそう、行き当たりばったりで行動するのよ!」
「ハイ……すみません」

目 を吊り上げてまくしたてる清良のあまりの剣幕に峰も返す言葉がない。
ーそこへ。

「まあま あ、清良、そんなに峰くんを怒らないであげてよ〜」
「昨日は女同士でまったりと温泉に入ってリフレッシュできたしね♪」
「お 肌、もうピッカピカのつっるつる!」

入ってきたのはフルートの相沢舞子、そして鈴木萌・薫のクラッシック界の叶 姉妹だった。
皆、同じようにスーツケースを抱えて旅行らしい装いをしている。

「あれ、みん なもう来てたの」

女の子を見ると反応が早い菊池がにっこりと笑う。

「来 てたも何も、昨日はホテルに泊まったんだけど…そこの温泉の数がすっごく多くって」
「檜風呂でしょ、泥風呂でしょ、露天風呂でしょ、 ジャグジー風呂でしょ、サウナでしょ、もう回るのが大変!」
「あんまりつかり過ぎて最後にはのぼせちゃったけど…すっごく楽しかった わ!!」

きゃあきゃあと笑い合う女性陣。
なんだか彼女たちは彼女たちなりに、別府の夜を思 いきりエンジョイしたようだ。

「そんな…私達は男同士で長時間、船の中で雑魚寝したっていうのに…悔しいわ…」
「だっ て真澄が千秋と一緒にいたいって言い張ったんだろう?それに真澄は女の子と一緒には温泉に入れないんじゃ…」
「何か言いたいことでも あるの?大河内くん」
「イエ…別に」

「そんな訳だから、私達はもうここで帰ってもいいのよ 〜」
「そ…そんな…清良〜」

冷たく言い放つ清良に情けなくすがりつく峰。
そ れからふと思いついたように訪ねる。

「ーそういえば、あいつは?。メールでは合流したって話だったけど…」
「あ あ、今、くるわよ」

清良が入り口の方を見やるのにつられて皆がそちらに視線を集中する。
す るとはあはあと息を切らせながら大きな風呂敷包みを首に巻いて、やって来たのは………のだめだった。
春らしく桜の花びらが刺繍された ワンピースに白いカーディガンを着ている。
だけど風呂敷を巻いている姿は、どう見ても昔の漫画のいなかっぺ大将にしか見られない。
の だめが目ざとく千秋の姿を見つけて、ぱあっと満開の笑顔を浮かべる。

「先輩!!」

千 秋は思いがけない人物の登場に、しばし言葉を失った後ゆっくりと足を前に踏み出した。

「ーのだめ……」

千 秋が声をかけようとしたその時、峰と真澄がのだめにだーっと駆け寄った。

「のだめ!。お前コンセルヴァトワール の試験どうだったのか!?」
「まさか…まさか…あんた、落ちたんじゃないでしょうね!」

の だめはぷぷぷっと笑うと二人に向かってVサインをしてみせた。

「ーもちろん、合格しましタ!!」

そ の言葉に一気にテンションが上がる峰と真澄。

「うぉぉぉーっっ!!良かったなあーっっ!!のだめ!!」
「嘘 でしょう?あんたがコンセルヴァトワールに受かるなんて…ああ、悔しいけど、でも嬉しい!!」
「ありがとうございマス!!のだめ、が んばりましタ!」

抱き合って飛びはねながら喜び合う三人。
峰は感動でボロボロと男泣きして いるし、真澄の目もうっすらと少し涙ぐんでいた。
のだめといえば終始にこにことした笑顔で。

「の だめちゃん、コンセルヴァトワールに受かったの!?」
「え〜うっそ〜!!」
「すっご〜〜い!!」

萌 や薫、舞子も加わって皆がのだめを取り囲む。
ひとしきり周囲から賞賛の嵐をあびた後、のだめがふと思い出したかのように千秋に向き 直った。
えいっと姿勢を正し、直立不動のまま右手を折り曲げて敬礼の姿勢をとる。

「ー秋先 輩……野田恵、パリのコンセルヴァトワールの試験に見事合格いたしましタ!!」
「……ああ」

ー ところが、千秋は何故かぶすっとした表情をしてのだめと視線を合わせない。

「……?。あの……先輩?のだめ、合 格したんですヨ……」
「今、聞いた」

ーあれ?……おかしいデス。ここは喜んでもらえる筈な のに……。

千秋の冷たい無愛想な対応に、思わず動揺しておろおろとするのだめ。
それを見て 菊池が口に手を当ててぷーっと吹き出し、そのまま、くっくっくと笑い出した。
黒木が困ったような表情を浮かべながら、のだめに言っ た。

「恵ちゃん、合格おめでとう。…でも…あの、その…千秋くんは、誰よりも先に自分に報告してもらいたかった んだと思うよ…」

菊池が耐えきれずゲラゲラと声をあげて笑いだした。

「なっ……」

ど うやら図星だったようで、千秋がかあっと顔を赤らめる。
のだめは、はたっと自分の失態に気づいて、急いで千秋の元に駆け寄ってその手 を取った。

「あの……先輩、すみまセン……。でも、のだめ、先輩に会いたくて会いたくて」
「う るせえ!!。電話一つ寄越さなかったくせに!」
「はうう…。そんな余裕がなかったんデスよ…。やっと会えました、充電させてくだサー イ!!」
「やめろーっっ!!」

千秋に飛びついて腰に抱きつくのだめと、それを必死に制止し ようとする千秋。

「あんた!何を千秋様に抱きついているのよ!!」
「ちょっと…ボクの千秋 くんに……離れろーっっ!!」

ここはお互いの目的のために共同戦線をはる真澄と高橋が、のだめをひっぺがえそう と躍起になった。
他の連中は呆れて苦笑いを浮かべながら、遠くから見守っているだけだった。



旅 は始まったばかりだ。




続く。