(こ
の作品は「オセロゲーム」の続きとなっております)
マ
ルレ・オケの練習の後、今日はこれからどうするの?と聞かれのだめの所へ行くと言った千秋に
「あ、いいな〜。ボ
クものだめに久しぶりに会いたい!ヤスも一緒に行こうヨ」
と言いだしたのはポールだった。
「え……
いや、その……」
おどおどとしながら千秋の顔色をそっとうかがう黒木。
案の定、千秋はどす
黒いオーラを出して『お前らはいつでも学校で会えるだろうが〜』と不機嫌さがありありとうかがえていたが、
そんな微妙な空気をポール
が読める筈もなく、結局黒木は引きずられるようにして三人はのだめの部屋(元千秋の部屋)に向かった。
ドアの前に着いてみると…なん
だか中が騒がしい。
ガチャリ。
「あ、先輩〜!!」
の
だめの顔がぱっと輝き、満開の笑顔で飛びついてくる。
「……おい。黒木くん達もいるんだぞ」
千
秋が慌てて手で押しのけようとしてものだめは「じゅうで〜ん」と抱きついたままなかなか離れようとしない。
そこのところはわきまえて
いるのか、さりげなく視線を逸らす黒木達。
まあ、久しぶりの逢瀬なのだから仕方がないよな……と自分に言い訳をしつつも千秋はコホ
ンっと軽く咳払いをして、ともすればにやけそうになる口元を必死で抑える。
それにしても……。
「あ、
千秋久しぶり〜」
「あいかわらずうっとおしいわね〜あんた達」
「千秋、僕お腹が空いたヨ〜」
「……
お前ら……なんでここにいるんだ」
部屋の中にはフランク、ターニャ、ユンロンがまるで自分の部屋であるかのよう
にゆったりとくつろいでいた。
「いや、千秋が来るって聞いたから今日はおいしいものが食べれるんじゃないかと
思って」
ぬけぬけと言うユンロンに、千秋はムッとした表情で腰にしがみついているのだめを睨む。
の
だめはなんで千秋が機嫌が悪いのかがわからないのか、きょとんとした顔で千秋を見上げている。
……まったくなん
でこいつらがいるんだよ。
せっかく久しぶりに会えるっていうのに二人きりになりたいとかいう感情がこいつにはないのか?。
(自
分がポール達を連れて来たことは思いっきり棚に上げている)
「ごめんね、千秋」
申
し訳なさそうにフランクが言う。
「千秋ものだめに会うの久しぶりだろうからやめようって言ったんだけど……」
「あ
ら、でも私達が来る前にもうリュカが来てたわよ」
ターニャの言葉に千秋は目を瞬かせる。
リュ
カ?。
その言葉に千秋が部屋の真ん中を見やると……いつぞやの少年がテーブルの前の椅子に座って静かに本を読ん
でいた。
リュカは自分の話題が出たことに気づくと、千秋に向かってにっこりと笑った。
「こ
んにちは、千秋」
「……ああ」
リュカの挨拶は一見礼儀正しいのだが、その目は笑っていな
い。
その視線が下に降りずっと千秋に抱きついてにこにこ笑っているのだめに向けられるといっそう険しくなった。
千
秋は大きくため息をついた。
「ムッ
キャ〜!!おいしいデス!!。久しぶりの先輩の晩ご飯!!」
結局あれから千秋はそのまま買い物に行かされ、人数
分の夕食を作る羽目となった。
ターニャやフランク、黒木には手伝ってもらったものの、まとわりついてくるのだめは「邪魔」と言って
キッチンから追い出した。
図らずもこんな状況に陥ってしまう羽目になってしまったことへの八つ当たりである。
追
い出されたのだめはぶーっとふくれっ面をしながらも、すぐに手伝う気の全くないユンロン達とわいわい遊び出した。
そうして出来上がっ
た夕食を皆で囲む。
カチンとワインのグラスの触れ合う音がする。
温かな湯気に包まれ魅惑的な匂いが漂い、空腹
だった皆の食欲を誘う。
こんな賑やかな食事も久しぶりだな……。
千秋
は皆の楽しそうな会話に耳を傾けながら思う。
以前このアパルトマンに住んでいた時はこうやって皆で食卓を囲む機会も多かったが、現在
は一人きりの生活だ。
のだめとですら、スケジュールが合わず滅多に共に食事をすることもない。
そう考えると、こ
ういうのもたまには悪くないな……なんてことを考えていた千秋は次の言葉で現実に戻された。
「そういえば、リュ
カはなんで来てたの?」
リュカはサラダのピーマンを取り除こうと必死になっていたが(こういうところがまだ子供
らしい)ターニャに話しかけられて顔を上げた。
「こないだがのだめの誕生日だって知らなくて何もできなかったか
ら、今日はちゃんとお祝いしようと思って」
「えへへ。リュカ、お花とシャポン持ってきてくれたんデスよ〜」
そ
ういえば棚の上には花瓶に生けられた赤い薔薇が綺麗に咲き誇っていた。
冷蔵庫には豪華なシャポンがあり、なんでこんなものがのだめの
部屋に…と思いつつも今日の夕食のメニューのメインにそのまま使わせてもらった。
そうか。
の
だめのへのプレゼント……だったのか(……何故シャポン?)。
「のだめ、遅くなったけど誕生日おめでとう!!」
「あ
りがとう!リュカ!!」
微笑み合うのだめとリュカを見て、千秋は複雑な胸中になる。
別
に誕生日を祝ってもらうのがダメっていう訳じゃない。
……だけど今日は俺が来る日だってわかってただろう。
そん
な日に普通他の奴を呼ぶか?。
っていうか、いつもそう簡単にこいつを部屋に上げているのか?。
子供といえども、
こいつだって男には変わりはないんだぞ!。
知らず知らずのうちに表情が険しくなっている千秋にお構いなしに会話
は進んでいく。
「リュカは本当にしぶといな〜」
「この部屋に入った時、あまりの汚さに引か
なかったカ?」
「うん、最初はさすがにちょっとびっくりしたけど」
「リュカが掃除手伝ってくれたんですヨ〜」
「あ
あ……それで、私達が来た時片づいていたんだ。そうして綺麗になった部屋で二人でオセロしてたのね」
ん?。
オ
セロ??。
千秋はその言葉に反応する。
「何よあんた、まだブームが続
いてるの?」
「だって、リュカ強いから一緒にゲームしてて楽しいんですヨ〜」
オセロゲーム
といえば。
この間、リュカとの勝負でのだめがキスを賭けてリュカにあやうく唇を奪われそうになっていたことはま
だ記憶に新しい。
……何をやっているんだ……こいつは!!。
全然学習してねえじゃねえか!!。
「オ
セロか……懐かしいな。子供の頃はよくやったよ」
パンをちぎっていた黒木が呟く。
「オ
セロゲームの発祥地は日本だって知ってる?」
「そうなんデスか!?」
のだめがびっくりして
声をあげた。
「囲碁をベースにして生まれたゲームで、最初は牛乳瓶の蓋を張り合わせて使っていたんだって。オセ
ロの名前の由来はシェイクスピアの劇から来てるんだよ」
「ふぉぉ…さすが、黒木くん博識デス……」
の
だめは黒木の言葉を感心しながら聞いていたが、突然「そうだ!」っと手を叩いた。
「食事が終わったら皆でオセロ
しませんか?トーナメントみたいにして優勝を競うんデス」
「へ〜いいね、それ!」
「のだめにしてはナイスなアイ
ディアだヨ」
「なんだか楽しそうじゃない〜」
「おい……」
嫌な予感が
して口を挟もうとした千秋の声は完全に無視される。
「ただトーナメント組むだけじゃ面白くないわよね」
に
やりと笑うターニャにはい、はい!とユンロンが真っ先に手を上げた。
「お金!!お金賭けようヨ〜」
「ユ
ンロン……それはちょっと……」
さすがにフランクが止める。
「じゃ
あ、キスっていうのはどう?」
突然割って入った声に皆が驚いて、その発言の主に注目する。
リュ
カがテーブルの向こう側からあどけない顔をしてにっこりと笑った。
「この間みたいにさ、優勝したらのだめがキス
してくれる……ってのはどう?」
「ちょ……っ。リュカ!!」
「おい!」
の
だめと千秋が同時に声をあげる。
「そんなこと言って……また、のだめを練習台にしようとしてるんデスか!?」
「練
習台って何?」
不思議に思ったターニャに向かって、のだめは頬を赤くしながら答えた。
「リュ
カはおませさんですからネ。
友達が彼女とキスしたって聞いてうらやましくなって自分もしたくなったみたいなんデスよ。
でも相手がいないからってのだめとオセロでキスを賭けて、練習台にしようとして……」
ぷーっと頬をふくらませ
る。
「のだめに失礼ですよネ!!」
「いや、恵ちゃん、それは……その……」
黒
木が何かを言おうとしてやはり言い切れなかったのかゴニョゴニョと口ごもった。
「のだめ、あんたって……」
「全
然わかってないナーこいつ」
「リュカ……可哀想に……」
ターニャとユンロンとフランクも大
きなため息をついた。
のだめは顔中に?(ハテナ)マークを貼り付けたまま、皆を不思議そうに眺めた。
そこへ。
「オー!!
いいね!のだめのキス!!」
一人状況がわかってないポールが声をあげる。
「優
勝したらのだめがキスしてくれるんだろ?いいねいいね。ナイスだヨ、リュカ!!」
「だろう?」
何
故か手を取り合って意気投合するポールとリュカを見かねてターニャが口をはさんだ。
「ちょっと!そんなこと言っ
て、私が優勝したらどーするのよ。女からキスもらったりしても嬉しくないわよ!!」
「ターニャはヤスにでもしてもらえば?」
「な……っ」
「ちょっ
と、リュカ……」
あっさりとリュカに言われてターニャと黒木はふっと顔を見合わせると赤くなって黙ってしまっ
た。
「じゃあ、決まりだね。組み合わせはくじで決めて……っと」
「リュカ!」
さっ
そく、紙でくじを作り始めた行動の素早いリュカを、のだめは慌てて止める。
「ちょっと待ってくだサイ!。のだめ
まだキスするとか言ってないですヨ!!」
「なんで?」
「なんでって……」
の
だめは頬を赤らめたまま千秋の方をちらっと見る。
千秋は先ほどからずっと不機嫌そうな顔でぶすっとしたままだ。
「ふー
ん」
その様子をみながらリュカは冷たい目つきになる。
「千秋って本当
はオセロ弱いんだろ」
「え?」
「のだめは千秋に遠慮してるんだろ?。
千秋は弱いからオセ
ロゲームで優勝できるって思ってないんだろうな〜」
「ムッッキャーッッ!!」
のだめはいき
なり立ち上がった。
その顔は興奮で先ほどよりも紅潮している。
「いくらリュカだって先輩を
馬鹿にするのは許しまセン!!」
「だって、そうじゃない?千秋以外の人にキスしなきゃいけなくなるから躊躇してるんだろう」
「そ、
それは……」
「……結局のところ、のだめは千秋を信じてないんだよね〜。そんなんで本当に恋人同士なの?」
リュ
カは肩をすくめるとふ〜っとわざとらしくため息をついた。
のだめにはそんなリュカの言動が気に入らない。
「そ
んなことないデス!!先輩は何をやっても一番なんデスから!!絶対にぜ〜〜ったいに、オセロでも負けまセン!!」
「おい……」
怪
しげな雰囲気に千秋が嫌な予感がして、止めようと思った時にはもう遅かった。
のだめはリュカにびしっと人差し指を突きつけるとこう言
い放った。
「いいでしょう!!リュカ!!。
その勝負、受けてたちマス!!。
トーナメントの優勝者にはのだめが熱〜いキッスをしてあげマス!。
ーとはいっても先輩が優勝するに決まってますけどネ」
そ
う言うとのだめは千秋の手をがしっと掴みキラキラ輝く目で訴えた。
「ね、先輩!!。ぜ〜〜ったいに優勝してのだ
めの唇を守ってくだサイね!!」
「お前……お前な……」
……どうしてそんな見え透いた挑発
にのるんだよっ!!。
千秋は絶望したようにがくっとうなだれ、それを見てリュカはニッとほくそ笑んだ。
続
く。