ちょっと前からおかしいなって思ってたん
だ。
のだめの口から良く出るその名前の主がどんな奴かなんて・・・大して気にも止めてなかった。
あのガキがそこ
まで真剣だったなんて・・・
絶対に渡すもんか。
『
宣戦布告 千秋ver 』
オ
レは危うく同じ失敗を繰り返す所だった。
音楽を追うがあまりに愛する相手を放置して、見限られる。
一途な奴だか
ら、オレ様の事が昔からずっと好きだから、そんな事に甘えて放置して。
こういえば許してもらえる、のだめなら分
かってもらえる。
そう思って今までわがまま放題やってきたオレ。
何が不満だとか、のだめは決してオレには言わな
い。(Ruiの件は別だが・・・)
いつも我慢して、一人で解決をする。
今回だってそうだ。
大
事な予定をすっぽかしたオレを、音楽を優先したオレを理解してくれた。
のだめは自由奔放なやつだから、放ってお
けばどこか遠くに行ってしまうだろう。
こんなオレの事など忘れて。
や
ばい。
今失ったら困るのは、多分オレの方。
相手がガキだからってホッ
としてられないんだなって、あいつの目をみてそう思った。
窓から見下ろすオレを見つけるやいなや、鋭い視線をこのオレに突きつけた。
そ
れは挑発的な、闘志に満ちた・・・
そして、その後だ。
のだめの手を軽々しくとり、そのまま繋いだ。
オ
レに見せ付けるかのような、その行為。
最後に見たあのガキの顔。口元が笑ってて・・・
「ん
だよ・・・・・・あいつ!」
のだめも相手が子供だからって、気を許しすぎなんじゃねーか?
そ
んなのだめの態度も、今回の事があってからなんか素っ気ないし。
あのガキはのだめの回りをチョロチョロしてるし・・・
気
に入らねぇ・・・
オレが引っ越してからというものの、当然ではあるが乱雑としたのだめの部
屋。
片付けをするのは当然だと思ってる。
あいつがやらないから仕方なくだが。
別に何かを見
つけようだとか、浮気なのかとかそういう疑いをしてる訳ではなくて・・・
「なんだよ、こ
れ・・・」
ピアノの上に無造作に置かれたそれを手にとる。
のだめと
リュカが2人で写っている写真。
どこかの公園だろうか・・・? それとも学校? とにかく楽しそうに笑ってるアップの写真。
2
人くっついて、いかにもどちらかがシャッターを押したような・・・
「おい・・・くっつきす
ぎだろ。」
これはもしかしてもしかすると・・・
や
ばい。
あたりを見回すと、やれメモ紙にリュカとの約束時間だの、リュカから借りた本だの、
リュ
カに貸してる楽譜リストだの・・・
これでもかって言うくらい、あのガキの存在があって。
前
回来た時は気にならなかったんだが・・・
こんなのを見て、家でじっとしてられるほど、オレ
は出来てない。
のだめが学校が終わるであろう頃を見計らって、のだめを迎えに行く事にした。
*****
オ
レは何をしているんだろう・・・
あんなガキに嫉妬して、のだめの学校にまで来て。
学校の入り口付近で待っている
オレは・・・情けない事この上ない。
別に誰がこのオレの心情に気付くって訳ではないが・・・
い
や、こいつなら気付きそうだなって奴に声をかけられた。
「あらー? 千秋!?」
「っ・・・・・・
ターニャ!?」
「のだめならリュカともう帰ったわよ?」
「え!? どれくらい前だ?」
「あーー
でも、そこのカフェにいるんじゃない? リュカがデートだって言ってたわよぉ?」
「デート・・・」
「あ、でもの
だめはそう思ってないと思うわよ?」
「当然だ。」
「じゃあねー」
「・・・」
やっ
ぱり、あのガキ・・・
迎えに来て正解だったようだ。
ターニャは含み笑いをして帰る始末だし。
デー
トという言葉をターニャの口から聞いてから、オレのイライラは募る一方で。
ターニャの言う、道を挟んだ反対側にあるカフェとやらに目
を向ける
目に入ってきた光景は、なんて事はない。
向かい合わせに座ってたんなるお喋りをし
ているだけ。
お子様のデートごっこに、のだめが知らぬ間に付き合わされているといった感じだ。
「あ
ほらし。帰るか。」
そう、身体の向きを変えようとしたその時だった。
なっ・・・!?
あ
のガキが事もあろうがのだめの頬を触れ、のだめの柔らかい髪を撫で上げている。
それは何度も繰り返され・・・
今
オレの立っている位置から、のだめの表情は見えない。
そうされて喜んでいるのか、それとも迷惑がってるのか?
あ
いつの表情は・・・すごい真剣な顔。
ガキとは言えない、男の顔。
どっちにしても、これは放っておく訳にはいかな
い。
携帯を手に取り、のだめに電話をかけようとすると、鋭い視線がこちらへと向けられた。
朝
と全く一緒の、それは挑発的な、闘志に満ちた視線で。
ちらりと見えた耳まで赤いのだめを、意とも簡単に自分の元へと引き寄せ、その赤
い耳に・・・
「げ・・・・・・」
お
い、ふざけんなよ。ガキ。
手に持っていた携帯電話で、今度こそ目の前の相手へとかける。
『む
きゃーー! 先輩?』
「あぁ。」
『のだめ今リュカとお茶してるんデスよ!』
嘘
をつかないだけ、それだけは許してやる。
「見えるよ、ここから。」
『ほ
へ? ぎゃぼーー! 迎えに来てくれたんデスか!?』
「来ちゃ悪いかよ。」
『今いきマース!!』
そ
う言ってのだめは二言三言リュカとやらに話しかけ、あっさりとオレの元へと駆け寄ってくる。
そんな近づいてくるのだめの向こう側にみ
えるあのガキの顔。
そんな目で睨みつけたって、相手にもなんねーよ。
「む
きゃv お待たせしマシたー!」
「行くぞ。」
「へ? あっ待って!!」
悪
いがオレ様は今、機嫌が悪い。
歩き出すオレの腕にしがみついてくるのだめ。
この姿があのガキの目に入っているだ
ろうか?
こいつはオレの女なんだ。
相手が誰だろうと、たとえそれがガキだろうと手出しをす
る奴は容赦しない。
*****
の
だめの部屋に戻ってきてから聞くのは、当然リュカとやらの事。
ピアノの上に無造作に置かれたさっきの写真に目線を送りながら、それと
なく・・・
「おまえさ、リュカって奴と何話してた訳? さっき。」
「え・・・?
どうやったら女の子はドキッとするの?って聞かれただけデスよ?」
「へぇ。それで?」
「あ・・・や・・・?
何?先輩・・・」
「こうされて・・・、どうだったんだ? おまえは?」
の
だめの頬に手をそっと置き、もう片方の手で優しく髪を撫で上げる。
何度も何度も・・・あいつと同じように、真剣な顔で。
忽
ち赤くなるのだめの顔。
目を潤ませて。
「そうやって、あいつに
も・・・そんな顔見せたのか?」
「そ、そんな事ないデス! あん・・・ひゃぁ・・・」
「こうやって耳元にキスさ
れて・・・そういう声を出したのか?」
「だ、出してまセン!! んっ・・・っ・・・・・・」
い
い訳なんか聞きたくない。
おまえの耳が赤かったのは事実だから。
そんな顔させるのも、そんな声を出させるのも、
オレだけだって思っていたから。
今、腕の中にこうしてのだめはいる。
オレだけにしか見せな
いその姿で、オレの背にしがみつく。
オレに支配されたそのしなやかな身体を、幾度となく揺さぶっては解放ち、そしてまた誘う。
お
まえにはオレが必要で、オレにもおまえが必要。
その事を再度のだめに分からせるまでだ。
「お
まえ・・・・・・よそ見してんじゃねーぞ・・・・・・」
「あんっ・・・してまセンっ・・・・・・」
悪
いがこいつはオレの女なんだ。
絶対に渡すもんか。