た またま、天気が良かったから。
たまたま、のだめの夢を見たから。
たまたま、今日の僕の運勢が良かったから。


僕 はチアキに無言で宣言する。






『  宣戦布告 』





のだめははっ きり言って鈍感だと思う。
これまでだって、僕は色々と分かりやすい行動をとってきたと思うんだ。
現にのだめの周 りの人には、リュカって結構しぶといねって言われるくらいなん
だから。

僕がいくら頑張っ たってのだめが気付かないんだったら...
いっその事チアキに宣戦布告しようと思ったんだ。
もちろん直接言う訳 じゃないけど。
あいつはのだめと違って、そういうのに敏感そうだから...
チアキを焦らせてやるんだ。
僕 の存在を認めさせてやるんだ。

そして最終的には......のだめを手に入れてみせる。


の だめのアパルトマンに向う僕の足取りは、軽かった。
今日はたまたま天気がよくって、のだめの夢も見た。そして今日の運勢は最高だ
っ たんだ。
いい事があるような気がして、思わずのだめの家まで迎えに来てしまった。


――  ピンポーン ――


『ハーイ?』
「おはよ、のだめ! リュカだ よ!!」
『ぎゃぼっ リュカ!? どうしたんデスか?』
「一緒に学校に行こうと思ってv」


イ ンターホン越しののだめの声は、ちょっぴり驚いているようだったけど。
わざわざ迎えに来る事に意味があるんだ。
の だめは慌てて用意をして、僕の所に来てくれた。

今日ののだめも、かわいい...。やっぱり来てよかった。

の だめと会話をしながら歩き始めた時に、ふと視線を感じた。
のだめの部屋から、チアキがこちらを伺っているのが見えた。
凄 く不機嫌そうな顔。

ふん。チアキのヤツ。そんな顔したって僕は負けないよ。
これでもかって いうくらい挑発的な目でチアキを睨みつけ、先を歩くのだめの手
をとった。

これが僕の最初の 宣戦布告だった。

隣を歩く今日ののだめはいまいち元気がない。
電車に乗ってからもブツブツ と日本語を喋っていて、僕には全く理解できなかっ
た。
きっとチアキと喧嘩でもしたんだな。


「の だめ、今日レッスン終わったあと暇?」
「今日デスか? えとー...大丈夫デスよ。」
「カフェに寄ろうよ。」
「カ フェ?」
「うん、たまにはのだめとゆっくり話したいなって思って!」
「そうデスねv そうしまショ!!」


の だめに僕の事を少しは意識させたい。
意識させるような事をしたら、今までののだめとの関係が壊れるかも?って
恐 怖がないといったら嘘になる。
でも、僕は今までののだめを見てきて思うんだ。
そんな事くらいでのだめとの関係は 絶対に壊れない。

何故かそういう自信があったんだ。


*****


「ゆっ くりお話しって...なんの話をしマスか?」
「いいんだよ、のんびりと思いついたままの話で。デートってそういうもんでし
ょ?」
「ぎゃ ぼ!? デート? リュカ、誰かとデートしたいんデスか??」


今のだめとしてるじゃない。
こ れだって、歴としたデートさ。
何かを話したいからデートする訳じゃないもんね。
朝のは単なる誘い文句だよ。


「ねぇ、 のだめ。女の子ってさ、どういう事されるとドキッとするの?」
「う〜ん、そうデスね... 好きな人にされる事だったら、なんでもド キッと
しマスよ?」
「例えば...チアキ以外だとしたら?」
「ぎゃぼ!? それは悩みマス ね。」
「ふーん。」


のだめがドキッとするのは、チアキ限定なの?
僕 じゃ全然相手にもならないって事?
これで拗ねた顔しちゃったら、子供だって思われるもんね。
ここは平然とした男 らしい僕を見せないと。

そんな僕に、ふとチャンスが訪れた。
目をかゆそうにこするのだめ。
眠 いのかなって思ったけど。


「どうかしたの?」
「ん...ちょっとかゆ くって。」
「見てあげるよ。」


のだめが僕を見つめながら顔を近づけて きた。
白い肌、長い睫毛、ぷるんとした唇......
ドキドキするけど...見てあげるよって言った通り、のだ めのきれいな瞳を覗
き込んだ。
髪の毛が1本入ってるみたいで、それが原因かな。
のだめの柔 らかそうな髪を、僕の手ですっとかき上げた。
それで簡単にとれた髪の毛。
のだめの目のかゆみはもう治ったとは思 うけど...


「髪が入ってるみたいだから...じっとして。」
「あ、 ハイ...」


そう嘘を吐いて、より一層のだめに近づいた。
左手でのだ めの頬をそっと押さえて、右手で髪を撫で上げながら...髪を取り
除くふりをした。

今の僕 は、どれだけ真剣な顔をしてのだめを見つめているのだろう。
目の前ののだめは、見る見るうちに顔が赤くなっていく。
こ れって、ドキッってさせた事になるよね?

のだめと僕がいい雰囲気なのに、またしても...異様な視線を感じた。
真っ 赤な顔ののだめから目線をそらし、その異様な視線の先を見つめれば...


―― チアキ  ――



これが僕の、2度目の宣戦布告になった。


の だめの頭をグイッと引き寄せ、耳元へ軽くキスを送る。


「とれたよ。」
「ふぉぉぉ!  ありがとうございマス。」
「のだめ、......もしかして今ちょっとドキッとしなかった?」
「ぎゃぼ!?  バレちゃいましたか? ...ちょっとだけデスけどね?」


ちょっとだけ? そうかな? 凄 い顔、真っ赤だったよ?
突然鳴り響く携帯電話。慌ててそれをとるのだめ。
のだめの携帯電話が、甘い時間の終わり を告げる。
でも僕は満足。
こんな2人の甘い時間が過ごせて、今日は大成功だったよ。

電 話の相手は絶対にチアキ。
のだめの口元がほころんで、僕にあっさりと別れを告げてチアキに向って走って
いく。
チ アキはやっぱり、凄く不機嫌そうな顔。

ふん。チアキにまた見せ付ける事が出来て、ちょうどよかった。
こ れでもかっていうくらい挑発的な目でチアキを煽ってやる。


僕を侮るなよ。
ま だまだこれからだ。