こ
れは のだめ二次サイト「Precious」様で連載中の「てのひらの向こうに見えた地球」のパロディです。
そちらを読んでいない
と意味がわからないと思われますので注意してください(いや、読んでいても意味不明かもしれません……)。
本編をお読みになりたい
方は、当サイトのリンクからどうぞ。
簡単なキャラクター説明
メグ
ミ……のだめの前世。
月基地大学唯一のオルガン弾きにして抜群な音楽センスの持ち主。
故に人から妬まれる事もあるが、天然の為か気付かないでいる。
彼女は滅多に歌を歌わないが、ひとたびその歌声を聴けば彼
女の虜になってしまう。
シンイチ…千秋真一の前世。
非常に優秀な成績を
残し大学を卒業するも、月基地での研究員を買って出た。
音楽に関して彼の右に出る者は後にも先にもいなかった。
クールな外見とは違い、愛情深く生涯一人の女性だけを愛し通した。
リュウ……峰龍太郎の前世。
天文科の熱血生徒。女性を愛でる習慣があり、一部では女垂らしと思われているが
優しさやフェミニストが行き過
ぎている結果なだけである。
自分の考えを押し通す頑固さを持ち、ややシンイチとぶつかる場面も。
ラ
ン………三木清良の前世。
勝気な表情に裏切ることがなくとても強気な性格の持ち主。同じ種類の名前を持つサクラとは気の
合う親友同士。
メグミの事をあまり良く思っていない節がある。
サクラ……佐久
桜の前世。
背がすらっと高く綺麗な顔立ちをしているが引っ込み思案でシャイ。
男性恐怖
症の気があり、いつもおどおどしている。
シュウ……黒木泰則の前世。
年齢の割
りに大人の考えを持っている為いつもランにジジ臭いと言われる。
メグミの不思議な力にいち早くぶつかった人物でもある。
現在の設定としては、シンイチとメグミは恋人同士で、リュウとランは結婚してラギという子供がいます。
プー
プープー。
緊急のブザーがドーム内に鳴り響いた。
それぞれに各自の研究を行っていた月基地
メンバーの全員に緊張が走る。
緊急ブザーが鳴ったら、なにはともあれ作業を中断してモニタールームに集まるのが
最優先となっていた。
どうした。
何が起こったんだ。
コ
ンピュータートラブルか。
モニタールームに駆けつけたメンバーは、1人の男が立ち尽くしているのを見た。
彼
は背中を向けて、ただ1人泣いていた。
「リュウ……いったい……」
彼
の妻であるランは、2人の愛の結晶であるラギを抱えて走ったのだろう、息を切らしていた。
そのランの声に気づくとリュウは振り返っ
た。
皆の視線が一斉にリュウに集まる。
「リュウ……どうしたんだ。的
確に状況を報告しろ」
リーダーのシンイチの張りつめた口調に、リュウが声を絞り出すようにして出す。
「俺
は……俺は……」
ごくっと息を呑むメンバー達。
「俺は、今、猛烈に感
動しているーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」
……… ……… ………
「「「「「は
あ?」」」」」
て
のひらの向こうに見えた地球……番外編……「トリスタンとイゾルデっぽいもの」
「……
要するに……地球の映画という奴を見て、感動したという訳か……」
呆れたように溜息
をつくのはシンイチ。月基地で信頼を集めている皆のリーダーだ。
「あっっきれた!!。何事かと思ったわよ!!」
上
から叱りつけるようにするのはラン。リュウの妻であり、ラギの母親である。
「そんなことに緊急ブザーを使うのは
いただけないな」
落ち着いた声でリュウをたしなめるのはシュウ。常に穏やかな男だ。
「……
でも、リュウが感動したっていうその『トリスタンとイゾルデ』っていう映画、どんな内容だったんですか?」
遠慮がちに、でも興味を持って尋ねるのは内気なサクラ。
「お
おっっ!!。よくぞ聞いてくれた!!。
『トリスタンとイゾルデ』は史上もっとも美しい悲恋物語……と題してあってな。
ワーグナー
という歴史上の優れた音楽家がオペラとして誕生させたというものなんだ!!」
「……オペラって歌唱で行われる劇のことよね」
音楽の話になると途端に目を輝かせるのは、月基地でのサブリーダーであるメグミだ。彼女は他に類を見ないオルガン弾きである。
「そう
だ!!。
政略結婚でマルケ王に嫁いだアイルランド王女イゾルデと、マルケ王の甥であり臣下であるトリスタンのけして許されない
恋……。
その切なさと情熱!!。感動のストーリー!!。
俺は見ていて涙が止まらなかったぜ!!」
ま
た思い出したかのようにしゃくりあげるリュウ。
「そして、俺は決意した!!。これを劇として作り上げ、自ら上演
しようと!!」
……… ……… ………
「上
演って……誰が?」
皆の問いにリュウは当然といった表情で答えた。
「も
ちろんここにいるメンバー全員でだ!!」
……… ……… ………
「え
ええええええええーーーーーーーーーーーーっっっ!!」
皆が一斉に驚きの声を上げる。
その
音量にびっくりしたのか、ラギが泣き出した。
まだ1歳にもみたない我が子をあやしながらランが怒鳴りつける。
「あ
のね……リュウ、あんた何考えてるのよ!!」
「リュウの考えは突飛すぎるよ……。例え、僕たちが上演して、誰が見てくれるっていう
の?」
そう問うシュウに、リュウは胸をはって答えた。
「ん?誰も観客
はいないぞ」
「あの……それじゃあ、いったい何のために……」
おそるおそる聞くサクラ。
「も
ちろん!!。自己満足のためだーーーーーーーーーーーーっっっ!!(どーーーーーーーん!!)」
………
……… ………
はあっと溜息をつくシンイチ。
「……っ
たく……話にならないな。僕は空調管理システムの修理があるから、作業に戻るぞ」
「シンイチ〜〜」
哀
れっぽくすがるリュウを無視して、それぞれが解散しようとしたその時。
「待って」
と
声がした。
振り向くとメグミが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「その案……いいと思う
わ」
「メグミ!?」
シンイチは驚きで目を見開く。
「正
気か?あんなリュウの戯言にのるなんて……」
「ねえ、シンイチ、聞いて……」
メグミは熱い
視線でシンイチを見た。
「私達……ずっと長い間この月基地に閉じこめられているわよね……」
「……それは……
任務だから、仕方がない」
「ここは、1つ、レクリエーションのようなものが必要だと思うの。皆の心を癒してくれるような……」
「メ
グミ!!」
リュウは感激してメグミの手をとってぶんぶんと振った。
「お
前だけは……お前だけは、わかってくれると信じてたぜ!!」
「リュウ!!どさくさにまぎれてメグミの手を握るな!!。メグミ……君の
言いたいことはわかるが……しかし……」
「シンイチ……お願い……私……娯楽的なものがこの基地には足りないと常々思ってたの……。
皆の心も1つになるいい機会だし……」
「しかし……」
「ねえ……お願い」
メ
グミはシンイチを長い睫毛に覆われた潤んだ瞳で見上げた。
この瞳にシンイチが堕ちなかったことは今までない。
「……
わかった。……許可しよう」
「えーーーーーーっっ!!」
非難の声をあげたのはランだ。
「ちょっ、
ちょっと、シンイチ、何言ってるのよ!!」
「……まあ……メグミちゃんがそこまで言うんだったら……協力しないでもないかな……」
「も
う、シュウまで」
「なんだか、楽しそうですね。劇っていうのも」
「サクラ〜〜〜ッッ!!」
1
人で怒り狂っているランをリュウがじっと見つめた。
「ラン……ぜひ、俺がトリスタン、お前がイゾルデで、素晴ら
しい愛を演じようじゃないか。……夫婦の愛の絆だ」
「リュウ……」
「それに、これはラギへの情操教育にもなる
し」
(注)ラギはまだ1歳にもみたない。
「わかった……あなたがそこ
まで言うんだったら……」
そう、ランの心が傾きかけた時。
「あ、キャ
スティングはくじ引きにしましょうね」
あっさりとメグミが言う。
「えーーーーーーーーっっ!!
そりゃないぜ、メグミ。俺とランで最高のドラマを作り上げようと思ったのに!!」
「だってそれじゃ面白くないじゃない」
「ま
あ……確かに不公平ではあるな」
「シンイチまで!!」
「それじゃあ、くじ引きで配役を決めることにするわよ!!。決
定ーーーっっ!!」
メグミが朗らかに叫んだ。
そ
して
「やっぱりトリスタンは俺だったな!!。や
はりこれは運命なんだよ、うん」
喜びいさんでサクラの縫った中世の衣装をまとい、作り物の剣を腰に差すリュウ。
「だ
けど……トリスタンって……」
「トリスト(悲しみ)の子……っていう意味よね……」
「悲劇のヒーローよね……」
「ん?なんか言ったか?」
こ
そこそと話合うランとサクラに向かって、ムチムチツヤツヤと血行のよい健康男児そのもの!といったようなリュウが、にぱあっと太陽のように笑った。
「あ
きらかに……ミスキャストよね……」
「ミスキャストはこっちだろう!!」
怒鳴りつけるのは
シンイチ。
彼は豪華絢爛な中世のドレスを着せられていた。
ウィッグをつけたその姿は、少し長身ではあるがとても優美で男性とは思えない。
「………な
んで、俺がイゾルデなんだーーーーーーっっっ!!」
「くじ引きで決まったんだからしょうがないじゃない」
さ
らっと言うメグミ。
「普通……くじ引きで男女の区別くらい分けないか?」
「だって、それ
じゃあ面白くないじゃない(そればっかりだぞ メグミ)」
「い……嫌だ!!。僕はやめる!!」
「残念だわ……せっかくの劇なのに……。じゃあ、私がイゾルデをしようかしら……
トリスタンがシンイチじゃないのは残念だけど……マルケ王はシュウだし」
メグミの言葉にシンイチがうっとつま
る。
「おお!!それでもいいぞ!!メグミと俺で愛の賛歌を……いてててて」
ラ
ンにほっぺたをつねられているリュウの顔と、涼しげな顔で微笑んでいるシュウをむっとした顔で睨み付けたシンイチに、もはやなす術はなかった。
「ト
リスタンとイゾルデっぽいもの」開幕。
第1幕。
イ
ギリスのコーンウォールへ向かう船の上。
船乗り達が舟歌を歌っている。
アイルランドの王女であるイゾルデは、い
まだ顔も見たこともないマルケ王の所へ嫁いでいくのだ。
「………」
「ほら、台詞」
シ
ンイチをつついたのはラン。彼女はイゾルデの侍女ブランゲーネ役なのだ。
「……トリスタンはどこです」
渋
々口を開くシンイチ。
「あの男……世間では英雄だと言われているようですが、私の所に流れ着いた時には傷つき死
にかけていました。
そして、傷ついた彼を私は優しく癒したのです。
……何も知らずに。
彼は私の許嫁であるモロルトを殺した男だったのです。
モロルトの首に残っていた金属の破片が、トリスタンの剣の小さく欠けた部分に
ぴったりはまったのがその証拠……。
……しかし……彼の仇を討つことは私には出来なかった。
何故なら……私
は彼を……あ、あ、あ、あ、……」
これ以上の屈辱はないといった表情で台詞を絞り出すシンイチ。
「……
愛してしまったから……」
シンイチの努力にパチパチパチとランがねぎらいの拍手を送る。
「……
だから生きてイギリスに帰してやりました。
イギリスの部族を分裂させようという父上の策略で、勝者には土地と娘を与えるというおふれに、
参戦して見事に勝利を得た彼。
私はてっきり彼のものになると思っていたというのに……まさか伯父マルケ王の代役だったとは……
恥知らずにも私を伯父マルケ王の妻として迎えいれようとするその恥ずべき心。
どうしてあの時殺してしまわなかったのかしら……」
「イ
ゾルデ様」
ランはそっとシンイチを宥める。
「トリスタンが姫様をマル
ケ王の妻に迎えるのは、高貴な地位を差し上げようという真心なのですよ。どうか御心をお鎮めになってください」
そ
んなランの手をシンイチはぱっと振り払う。
「あの薬を用意しなさい」
「姫様……あの薬と
は……」
「そう、死の薬です。そしてあの男……トリスタンを私のもとに呼びなさい!!」
苦
渋に満ちた表情で舞台を下がるラン。
そして再び登場した時には、トリスタン=リュウを伴って来た。
ランの手には例
の薬が……。
「やあやあ!!イゾルデ!!元気か!?」
右手をあげてに
こにこと笑いながら登場してくるリュウにシンイチはがくっとくる。
「リュウ……いや、トリスタン。なんでお前は
そこまで陽気なんだ。そんな役どころじゃないだろうがっっ!!」
「へ?」
「お前は、愛する女性を伯父に献上しよ
うとする、忠誠と愛の間で苦しむ男なんだぞ!!。ヘラヘラするな!!」
……意外とマジモードになっているシンイ
チだった。
あまりの迫力にリュウはコホンと咳をする。
「あ、そうだ
な……えーっと、姫様にはご機嫌麗しく……」
「麗しくない!!」
シンイチはきっと睨み付け
ると激しい口調で言った。
「あなたは私の婚約者を殺した罪を、私はおめおめと敵国に嫁ぐという恥辱を償わなけれ
ばならないのです。……だから……私と一緒に死になさい」
「……えええ!?なんで!?」
「……なんでって……脚本がそうなっ
ているだろうが」
「うーん、でも死ぬことはないんじゃないか?」
「お前、真面目にやれ!!。僕は女装までさせられてこんな茶番に
つき合わされているんだぞ!!」
シンイチの怒鳴り声に、ラギが泣き出した。
慌ててあやしに
かかるリュウ。
「おーし、よしよし、怖いおねえちゃん(笑)でちゅねーーーーーっ」
「……
お前……やる気があるのか?」
「そんなことを言ったって、俺の可愛い息子だもん♪」
シンイチが今にもぶち切
れそうな険悪なムードを察して、ランが慌ててフォローに入る。
「……そ、そうなんです。姫様、お許しくださ
い……実は、この子は、トリスタンとこの私ブランゲーネの間に出来た子……」
「え?あ……そうなんだ。つい、こいつが好みだったか
ら……ごめんな、イゾルデ」
………そんな設定どこにもねーよっっ!!。この馬鹿夫婦!!。
心
の中で激しく突っ込みを入れながら、シンイチは声を怒りで震わせる。
「まさか……私の侍女にまで手を出していた
なんて……この最低男!!。さあ!!この死の薬を飲みなさい」
「えーなんかこの液体、緑色でまずそうだぜ」
「飲みなさいったら飲みなさい!!」
し
ぶしぶリュウは並々とグラスに注がれた薬を飲み、それを奪い取るようにしてシンイチが残りを飲み干した。
………
……… ………
しばらく2人は何も言わなかった。
ただお互いだけを
見つめていた。
「リュウ……お前って……いつもお調子もので騒ぎばっかり起こす問題児だと思ってたけど……意外
と、いい奴だったんだな……」
「シンイチ……俺もお前のことを陰気でねちねちした奴とばっかり思っていたけど……お前って……こんな
にいい男だったのか……知らなかった……」
そしてお互いに近づき手を取り合った。
熱く見つ
め合う。
「そう、私が死の薬と愛の媚薬をすり替えたのです……って、なんだか2人とも変じゃない?」
ブ
ランゲーネ役のランが不審そうな顔をする。
「シンイチ……どうしちゃったの?ねえ、今飲んだ薬って……」
メ
グミがシュウを振り返る。
シュウはにっこり笑って言った。
「あ、どうせだから本物の愛の媚
薬を試しに使ってみたんだ。試作品だったけど、なんだかうまくいったみたいだね」
「「ええええーーーーーーーーっっ!!」」
「シュ、
シュウ……まさかあんた、成功したらメグミに使ってみようと思ってたとか……」
………
……… ………
「やだなあ。そんな訳ないじゃないか」
さ
らっと爽やかに笑うシュウ。
さっきの間はいったいなんなんだ。
「どう
しよう……俺、さっきからシンイチの顔を見てると胸がドキドキして破裂しそうになるんだ……なんてことだ!!俺にはランがいるのに!!」
「ま
さか……そんな……メグミという存在がありながら、僕の心が揺れ動くなんて!!ああ、リュウの笑顔が眩しい……」
思
いっきり動揺しまくっているシンイチとリュウを見ながら、妻であり恋人であるランとメグミは顔を見合わせて頷いた。
「……
まあ、いっか」
「見てたら面白いしね♪」
愛の媚
薬を飲み、五官を焼き尽くす愛におちいってしまったトリスタンとイゾルデ。
船は、いままさにコーンウォールへ到着しようとしていた。
続
く……かもしれないし、続かないかもしれない(笑)。