第2幕。
一
行は城へ到着した。
そしてイゾルデは夫となるべき男……マルケ王(シュウ)と対面することになった。
涼やかな外
見を持つ彼は、イゾルデの美貌に一目でとりことなった。
「ああ……なんて美しい姫君なのか……」
「………」
「そ
なたがこの城を気に入ってくれるといいのだが……」
イゾルデの肩を抱き、そっと城の方へ誘うマルケ王。
彼
女は王に微笑みを見せながらも、一瞬、トリスタンの方を振り返った。
愛する女性が、最も親愛なる王によって奪い
去られていくのを、トリスタンはぐっと悲しみをこらえて見つめていた。
ト
リスタンとイゾルデっぽいもの 後編
「ど
うしたんだ?……なんだかさっきから落ち着かないようだね」
シュウの声がそっと気遣うように囁く。
こ
こはマルケ王の寝室。
そう、結婚式を終えた2人は、初めての夜を迎えるのだ。
「そ、そんな
ことはありません……」
俯いたまま答えるシンイチ。
「いろいろな儀式
や宴会で疲れたのではないか?長旅で大変だったろうに……」
そう言って、シンイチの側に近寄り、顎をくいっと傾
けるシュウ。
キャーっと舞台袖で見学していた女性陣が、黄色い声をあげるのを抑えた。
「シュ
ウって、なんだかノリノリよね!!」
「すっごく役にはまってる!!」
そして愛しげな視線を
落とすシュウ。
「……そなたは本当に美しい……」
「陛下……」
「………
そういうことで……さあ……こちらにおいで」
にっこり笑うとシュウはベッドを指さした。
もちろ
んダブルだ。
「あ、あ、あ、あ、あ、あの、陛下、その、」
「……震えているな。怖いのか?……可愛いな」
「いや、怖いとかそういう訳じゃなくて!」
「……大丈夫。……優しくするから……」
「ちょっっっ
ちょっと、ちょっと待て、シュウーーーーッッ!!」
シンイチの叫び声が響き渡った。
暗
転(笑)
その頃、リュウの演ずるトリスタンは、城の庭に座り込んだま
ま、満天の星空を見上げていた。
「……きっと今頃……イゾルデは……」
く
うっと声を出さずに顔を歪めるリュウ。
その時だ。
「トリスターン!!」
自
分を呼ぶ声にはっとして振り返ると、たった今、密かな想いを抱えていたイゾルデ=シンイチが走ってやって来た。
「ど
うしたんだ!イゾルデ!!」
「僕は……いや、私は、もう駄目です!!あんなこと……もう耐えられない!!」
「あ
んなことって……いったい何をされたんだ?イゾルデ」
「何をって……」
問われた途端、絶句
して、顔を真っ赤にして俯くシンイチ。
いったいシュウは何をしたんだ(笑)。
シ
ンイチはきっと向き直るとリュウに向かって言った。
「私は自分の心を偽れない!!。だって……だって……私が愛
しているのは……」
「それ以上言うな、イゾルデ」
リュウはシンイチの言葉を遮った。
「マ
ルケ王は……両親を亡くして身寄りのなかった俺を、ずっと慈しんで育ててくれた人だ……彼を裏切ることは俺にはできない……」
「トリ
スタン……」
「だけど……まあ……しよっか♪」
急に、にっぱあっと笑ってシンイチの肩を抱くリュウ。
「い
や、しよっかって……何を?」
「何をって、愛しあう男女が寄り添えばするべきことは1つだろう」
「ちょっと待
て!!さっきまで王を裏切ることはできないとか、すっごく騎士道的ないいこと言ってなかったか!?お前!!」
「いや〜それとこれとは話
が別だし」
「オイ!!」
「……それとも、俺が嫌か?イゾルデ」
真剣な
眼差しのリュウに見つめられてシンイチは首を振った。
「……嫌じゃない……」
「じゃあ、いっただきまーっす!!」
早
速ぐいっとシンイチを押し倒そうとするリュウ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!!これには重大な問題がある」
「な
んだよ〜問題って」
「確かに、トリスタンとイゾルデは舞台の上で官能の世界に陥ることになっている……だが、役を演じているお前も男
で、俺も男だ!!。いったいどうやって……」
「まあ、そりゃあ、×××(ピー)を×××(ピー)に……」
「露骨に言う
なっっ!!」
一部、見苦しい用語が入りましたことをお許しください。
「だっ
てさ〜俺がトリスタン役で、お前がイゾルデ役なんだからしょうがないだろう」
「嫌だ!!それには納得できない」
「じゃ
あ、どうする?」
シンイチはうっと言葉につまると……やがてこう言った。
「……
ジャンケン」
「へ?」
「ジャンケンで勝った方が男役で、負けた方が女役だっっ!!」
「また
そんな、原始的な……」
「うるさい!!。いくぞ!!」
じゃーんけん、ぽいっ!!。
シ
ンイチはチョキを出して、リュウはパーを出した。
「やったーーーーーーーーーーっっ!!」
ガッ
ツポーズをとるシンイチ。
「えええええっっ!!ちょっ、ちょっと待て、イゾルデ!!」
「問
答無用だっ!!」
形勢逆転。
たちまち、シンイチはリュウを押し倒し返した。
そ
して、今にも舌なめずりをしそうな邪悪な瞳で言う。
「……文句はないな……リュウ……」
「シ
ンイチ……」
ぱこーーーーんっっ!!
威
勢のいい音がシンイチの頭に響き渡った。
ブランゲーネ役のランがハリセンを打ったのだ。
「2
人ともいいかげんにしなさい!!」
「ラ、ラン!!どうしてここに!?」
慌てるリュウに対し
てランは冷たく言う。
「ランじゃなくてブランゲーネよ!!。……ったく……止めなかったらどこまで進んでいたの
やら……」
そうしてブランゲーネは2人の前に跪いた。
「人目を憚らぬ
熱い視線、誰も気づかぬとお思いですか?。王の寵愛を受けているトリスタン様に嫉妬したメロートが、王に告げ口したのです!!さあ……早くこの場を離れ
て……」
「それには及ばないよ、ブランゲーネ」
落ち着いた声に3人ははっとその声の持ち主
を見た。
マルケ王役であるシュウと、メロート役であるメグミがそこには立っていた。
2人の氷のように冷たい目つきに唖然と
立ち尽くすトリスタン。
「王……」
「トリスタン……失望したよ……君には……」
絶
望の表情で目を伏せるシュウに、リュウはかけるべき言葉がない。
「まさか……妻と甥が……何よりも忠義一筋だっ
たトリスタン、君が……」
「………」
「僕は、全ての領土を君に譲ろうと、ずっと今まで跡継ぎを持たなかったんだ
よ。それが、イギリスをまとめるためにはどうしてもアイルランドの王女が必要だ……と言ったのは君だ。どうしてこんな仕打ちを?トリスタンの名誉と純潔はどこへ行った?」
「王……
俺は……」
「ずっと……ずっと今まで君の忠誠心を疑わなかったのに……。
テストに受からないからって拝み倒さ
れて、カンニングまでさせてあげたのに……。
メンバーが足りないからって頼まれて合コンにもつき合わされたのに……。
内気で女の子に声もかけれない僕の目の前で、女の子をとっかえひっかえしてたくせに……」
「え……えっと……シュウ?なんだか要点が
すりかわってない?」
おどろおどろした空気をシュウの背後に感じたリュウは恐怖におののく。
「メ
ロート!!。裏切りもののトリスタンを殺してしまえ!!」
「はっ!!」
剣を抜くメロート役
のメグミ。
シュッとその剣をリュウに突き出す。
間一髪でそれを避けたリュウだが、髪の毛が一房、ぱらっと落ち
た。
「ちょ……ちょっと待って……メグミ?その剣って……本物じゃね?」
「よくも、私のシ
ンイチといちゃいちゃしてくれたわね!!リュウッ!!覚悟ーーーーっっ!!」
こちらもかなり私情が入っているようだ(笑)。
「い
や、いや、いや、俺の話を聞いて……」
「問答無用ーーーーっっ!!」
メグミは剣の柄でリュ
ウの頭を手加減なしにぶん殴った。
ト
リスタンは重傷を負った。
第3幕
瀕
死のトリスタンは彼に忠実なクルヴェナール(サクラ)に伴われブルターニュにあるトリスタンの城に逃れてきた。
「う……
うう……ここは?」
傷の痛みに顔をしかめるリュウにサクラは言った。
「ご
安心下さい。ここは安全な地、ご先祖のお城です」
ふっとリュウは笑った。
「……
安心な場所などではない……。俺は、俺の帰るべき世界へ行くのだ……。……太陽はなく、国も人もなく、俺が昔、母の胎内にいたところ、そして俺がこれから
行くところ……。俺には最初からこの世に居場所なんてなかった……」
「トリスタン様……」
悲
しい瞳で主人を見つめるサクラ。
「だけど……もっとイゾルデといちゃいちゃしたかった……。
お城の庭で、あんなことをしたり、こんなことをしたり……。
今年も海へ行くって……映画もいっぱい見るって……約束したじゃな
い……貴方、約束したじゃない……会いたい……」
「と、トリスタン様が熱に浮かされて幻覚を!?」
サ
クラは慌てて使者をたてようとした。
「誰か!!イゾルデ様に使いを!!」
そ
の瞬間。
幼児の泣き声が響き渡った。
その声を聞
いたリュウははっとしたように目を開く。
「……ラギ?」
リュウは我に
返ったようにがばっと飛び起きた。
「そうだ……俺には、守るべき存在、ラギがいるんだ!!。
そして……そして……俺が、真に愛しているのはイゾルデではなくって……」
「ようやく気が付いたようだね、トリスタン」
そ
の声にはっと振り返るとそこにはシュウが立っていた。
「王……」
「ブランゲーネから聞いた
よ……。君たち2人は、愛の媚薬を飲んでニセ物の愛に惑わされていたんだね……ようやくその薬の効き目が切れたんだ」
そもそも、そ
の媚薬を作ったのはお前だ。シュウ。
「君は……僕を裏切った訳ではなかったんだよ……トリスタン……そして、イ
ゾルデ……」
シュウが見るその先には、シンイチが立っていた。
シンイチはシュウの前に跪い
た。
「王……お許しください……私は、貴方のところへ嫁ぎながら……他に愛する人がいたのです……それは……」
さっ
とメグミを指さすシンイチ。
「このメロートです!!」
その瞬間、メグ
ミの瞳は感激の涙に包まれた。
メグミはシンイチの腕の中に包まれる。
「トリスタン……
私、……私、信じていたわ……媚薬なんかに惑わされないで、きっと私を選んでくれるって……」
「メロート……すまない……心配かけ
て……」
そしてリュウはランを抱きしめた。
「ごめんな……ブランゲー
ネ……あんな薬なんかで真実の愛を見誤って……。俺にとって大切なのはお前とラギだったんだ……」
「ううん、いいの……、もういいの
よ……トリスタン……」
抱き合う二組のカップルを見ながら、シュウはゆっくりと頷いた。
「そ
れぞれが、真の相手を見定めたようだね……。
メロート。君はイゾルデと結婚して、末永くコーンウォールの城で僕の代わりにイギリス
を治めてくれ。
そして、トリスタン。君はブランゲーネと一緒になって、メロートを支えるんだ」
そ
の言葉に涙ぐみながら頷く4人。
感動したサクラはシュウを見遣った。
「なんという寛大なお
裁き……さすがマルケ王……」
そ
して、その後、メロートはイゾルデと結婚してイギリスを統一したという。
その側には忠臣であるトリスタンの姿が妻のブランゲーネとと
もにいつも側にあったという……。
終
幕。
「な
んか……」
衣装を着替えたシンイチが腑に落ちないといった表情で言った。
「ラ
ストが脚本と違わないか?」
そんなシンイチの肩を抱いてリュウがしししっと笑った。
「いー
じゃん、いーじゃん、これで。……俺たちにとって、大事な女性は……決まってるもんな」
そう言って、メグミとラ
ンの方を見るリュウ。
シンイチはふっと笑った。
「……まあ、そうだな……」
「う
ん!!」
リュウは深く頷いた。
「これで、めでたし、めでたし
だーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」
終
わり。