チェス





カフェでの勉強の後、まだ時間があるからとノダメにチェスでの勝負を申し込んだ。

「チェックメイト!」
ノダメが誇らしげに胸を張る。
おかしい。こんなはずじゃなかった。
ノダメに「さすがデスね!」といってもらうはずだった。
だけど、現実には盤上の僕のキングはノダメのビショップとナイトに追い詰められている。
「ささっ、どデスすか? もう降参デスよね?」
僕は盤上を睨みながら、さらにうなるしかなかった。
―――降参なんてするわけないじゃないか!

「……ノダメはチェスはやったことがないなんて、嘘だったんだね!」
つい口から出た文句はどうしてこんなに子供っぽいんだろう?
僕はもう大人とかわらないことを証明したかったのに。
「嘘じゃないデスよ! チェスは初めてデス。
でも、将棋を小さい頃から辰男とかキサブロウとよくやりましたから」
そんなの聞いてないよ!
―――ノダメが10コも年上だったことも。

「さあさあ。諦めて下サイ!」
ニコニコしながら僕を見るノダメはかわいくて―――
でも、もうかばんを持って帰り支度をすませている。
時計をちらり気にしているし、そんなにかわいいのはやっぱりチアキの所為?
―――余計に諦められるわけないよ!
ここを切り抜けさえすれば、もっと時間が稼げてこちらがチェックすることができるかも。
もっとよく考えろ僕! しっかりしろキング!

「あ!」
それを思いついた時に、僕はうっかり声をあげてしまった。
この局面を打開する妙手を思いついたからだ。
そうだ、まだまだ諦めない恋もこのゲームも。
時間さえあれば、充分追いつける。
―――そして、いつかきっとチェックメイトをかけてやる!




END.