夢か現か(後編1)





ベッド に横たわったのだめは顔は紅みを帯び、熱っぽい。

千秋は瞬時に着衣に乱れが無い事を確認し内心ホッしていた。
ま さか、そんなはずがあるはずないとは思うが、念の為。
そして効の程は不明だが一応松田にも釘を刺しておく。


「松 田さん、今日はのだめが世話になったようですね。迷惑かけてすみません。
でも一応言っておきますが、こいつこれでもシュトレーゼマン のお気に入りなんです」

「ふーん。だから? 何がいいたいわけ〜?」
投げやりに答える。

「こ いつに変にちょっかいだすと巨匠の機嫌をそこねて嫌がらせを受けますよ。
松田さんの仕事にも関わりますから気をつけてください」

「経 験者は語るってやつ?」

「オレはいいんですよ。オレはのだめのお気に入りだから。
それより も、松田さんには迷惑ついでに最後まで付き合ってもらいますよ」

「な、何を?」




意 味深な笑みを浮かべて千秋が言ったことというのは・・・

千秋はこのままのだめを連れて帰らず、松田の隣の部屋を 取り一泊するらしい。
が、千秋はここには「来ていない」ことになっていると。

偶にはのだめ にお灸を据えなければとも言う。

「それじゃ、明日ものだめをよろしく」

そ ういうとさっさと隣の部屋へ行ってしまった。


「千秋の考えてることも分かるけど、あの余裕 がムカつくよなぁ。
でものだめちゃんを誘ったのもあんな風に酔わせたのもオレだしな。
アパルトマンの場所、一度 行ったけどよく覚えてないし、彼女の部屋よりこっちの方が都合よかったってだけで。
まー下心が全く無かったとはオレも男だから言い切 れないし。」

めずらしく(?)独り反省と言い訳なんかしてみたりする松田。




そ のころ隣の部屋では。

「オイ、酔っ払い。水飲め」

身動ぎすれど半分以 上意識が飛んでいる。
口移しで水を飲ませているとぼんやりとのだめが覚醒してくるようだ。

「し んいちくん・・・?」

「うん」

「あーなんかのだめフワフワして気持ち いいんですよ〜」

のだめ紅潮気味の顔、潤んだ瞳、千秋に押し付けられる柔らかい体。
千秋も 久しぶりにクラクラしそうだった。

そのまま口づけてのだめを堪能する。

「なぁ、 のだめ」

「?」

「このまま抱いていい?」

の だめは良いとも悪いとも言わず曖昧に笑っているだけだ。

(やっぱりコイツ酔っ払ってんな。明日になっても記憶に 無いんだろうな)

千秋はそのまま優しくのだめのぬくもりを求めていった。



翌 朝、松田の部屋のインターホンが鳴らされた。
松田もぐっすり寝ていた様だが、しつこく鳴らしたおかげでやっと出て来た。

「お い、もっとゆっくりねかせろよなぁ」

「まあ、いいじゃないですか。ちょっと待ってて下さい。今のだめ連れて来ま すから」

一度部屋に戻るとのだめを抱えて松田の部屋に連れて来た。

「後 は宜しくお願いしますね、松田さん。オレはこれで帰りますから。
あ、分かってると思いますけど、のだめには」

「分 かってるって。手は出さないし、今だけ共犯者ってことでな。今回はオレも悪かったから仕方ねーし。
だけど、今後彼女と上手く行かなく なったってそれはオレのせいじゃないからな」

「それはご心配には及びませんよ。それじゃあ」

「余 裕かましてられるのも今のうちだけかもよ? あの娘だっていろいろ悩んでるみたいだったしさ。ちゃんと話聞いてやれよ」

「余 計なお世話です」

「ふん。可愛くねー」

「オレに可愛さを求めてどうす るんですか。とにかく頼みましたよ」

「はいはい」


千 秋が帰った後、松田はシャワーを浴び、コーヒーを飲んだ。
程なくしてのだめが目覚めたのだが、

「ぎゃ ぼーーー!!!」

「何?どうかした?」

「な、ななな」

「な?」

「何 ですか!? この状況は何なんですかー!!」

なんだかおかしくなって松田は噴出してしまった。

「の だめちゃん、とりあえずシャワー浴びておいでよ。それに少し落ち着きなって」

「で、でも!」

「ま あまあ」

促されて何とかシャワールームに入るが、のだめは愕然としていた。
昨夜の記憶がな いということと、起きたら裸だったことと、事後の感覚が有り有りと残っていること。
胸元にキスマークらしきものもある。
身 に覚えがなくても証拠はあちこちにある。

「どうしよう。のだめ昨夜酔っ払って松田さんと・・・!? ぎゃ ぼっ!」

シャワーを終えてから恐る恐る松田に聞いてみた。


「い やぁ、オレも記憶飛ばしちゃったみたいで全く覚えてないんだよね。ははは」

「ぎゃぼ。そうですか」

「と りあえず何か食べようか」

「いえ、いいです。食欲ないし。のだめ帰ります」

「あ、 そう? じゃあ送ろうか?」

「結構デス。一人で帰れます」

「それじゃ 気をつけて帰るんだよ。また機会あったら一緒にごはん食べよう」

「もう食べませんよ。飲みにも行きません」

「あー つれないね。じゃ、千秋によろしく」

のだめが一瞬ピクっと体を反応させた。余程千秋の事が気になるのかショック なのか」

「昨夜の事はさ、ま、事故みたいなもんだな。あんまり思い詰めるなよ?」

な だめようとする松田を無視してのだめは帰っていった。