夢か現か(後編2)
のだめ
がアパルトマンに戻ると千秋がいた。
いつもなら久々の再会なのだから嬉々として千秋に抱きついたり、においを嗅
いだりするのに、今回に限ってはそれがない。
のだめにとっては最悪のタイミング。
体が凍り
ついた様に動かない。
「のだめ? どうした? どこいってたんだ?」
「千
秋先輩、帰って来たんですね」
「うん。昨夜遅くに帰ったんだけどお前に連絡つかないし、朝になってこっちに来て
みたんだけどお前いないし」
その場から動かないのだめ。千秋の顔をまともに見られない。
そ
れでも千秋がのだめの手を引いて部屋の奥に入れ、座らせる。
「お前、様子が変だけど何かあったのか?」
俯
いたまま答えようとしない。
千秋は理由が分かっていたが、のだめがどう答えるのか待った。
暫
しの沈黙ののち、のだめは耐えきれずに両手を顔に当てて泣き出した。
そんな泣き方をするのだめは始めてだった。
虐
め過ぎたかなとちょっとだけ千秋の胸も痛んだ。
泣いているのだめの背中に手を置いて優しく擦ってやる。
「千
秋先輩。ごめんなさい。のだめ千秋先輩に離婚って言われても何も言えません」
「はぁ? 離婚って、ありえない。
そんなの不可能じゃねーか。結婚もしてないのに」
「でももうのだめ先輩とは一緒にいられないかもです」
「何
で?」
「それは・・・」
「反省してる?」
「は
い」
「じゃあいいよ」
「先輩知ってるんですか? のだめが昨夜どうし
てたのか」
「うん」
「はうぅぅ。ゴメンナサイ。のだめ、サイテーで
す」
「今度から気をつけろよな? 男と二人で酒飲むってどういうことなのか身にしみてよく分かっただろ?
唯でさえ酒弱いんだから加減を知ろ。いくらお前が変態だろうが下心がない男なんていないんだぞ。
食事をした時点でその気が有ると思わ
れても不思議じゃない。今回は松田さんだから助かっただけだから」
「助かったって、助かってもいないん
じゃ・・・」
「今回の件、ちゃんと反省した? 後悔してる?」
「は
い」
のだめはずっと暗い表情で力無く答える。
「じゃあ、オレの目的は
達したからいい。お前さぁ、本当に昨夜のこと覚えてない? 感触とかなんか思い出せないか?」
「うぎっ。思い出
したくなんてアリマセン!」
涙目で訴えるのだめが段々可哀相になってきたのでそろそろ本当の事を言ってやること
にした。
「のだめってさ、酔っ払うといつもより熱っぽくて色っぽいよな。身体も弛緩して抱き心地もいいし。いつ
もより燃える」
「・・・・・・」
のだめがさらに落ち込むのがわかる。
堪え切れなくてさめざめと泣き出してしまった。
「おい、泣くなって。昨夜はお前が思ってるような事はなかったん
だから」
「え? だって、のだめ・・・」
顔を上げたのだめに微笑むと
昨夜の出来事を伝えてやる。
本当の事が分かり心の底から安堵するのだめ。
「そっか。そう
だったんだ〜のだめホッとしました。でも先輩、随分イケズです。のだめすごく悩んだんですよ!
それに意識のないのだめを無理矢理
襲ったってことですよね? ちょっと酷くないですか?」
「無理矢理なんてしてないぞ。ちゃんと許可とったし。そ
れにお前も結構楽しんでただろ」
「だから覚えてないんですってば!」
「少
しは思い出せよ! 何なら思い出させてやろうか?」
「当分結構デス! のだめをイジメた罰ですよ、しばらくお預
けデス!」
「はぁ〜?」
「今回の事は充分反省しました。今度から気を
つけます。迂闊に誘いには乗りません。
アルコールは自分の許容範囲に留めます。先輩がいなくて寂しい時は自分でなんとかします。
そ
れから、やられたらやりかえしマス!目には目をデス! むんっ」
「どういう意味だ」
「の
だめはHは暫く自粛します。ちゃんと反省したいし」
「だからって、」
「だ
から、先輩への仕返しも兼ねたのだめの反省デス。協力してクダサイね。
どうせのだめ当分そういう気分になれそうも無いし…あんなに心
が痛んだのって過去記憶に無いくらいですから」
「そんな・・・」
「で
もキス位ならいいですよね? 挨拶だし、軽いのだけ」
そう言うと、千秋に近付き首に腕を回すとゆっくりとキスを
する。
「のだめが愛してるのは真一くんだけですよ。今までも、これからもずっと」
に
こっと笑うその顔が小悪魔の微笑みに見えたのは目の前の千秋だけなのであろう。
まさに千秋の予測の範疇を超える
結果となり、こんなことなら、と後悔するのも千秋の方だった。
お
わり